「これからの企業と生活者のコミュニケーションを変えるのは誰だ?」――宣伝会議 創業60周年の節目の号である本号では、メディア、テクノロジー、地域など、さまざまな切り口で、コミュニケーションの新しい可能性を拓いている40名あまりのクリエイターの活動を紹介します。なぜ、あなたはその活動に取り組むのですか? 自身の活動を通じて実現しようとしていることは何ですか? それによって企業のコミュニケーションはどう変わり、あるいは私たちの未来がどうワクワクするものに変わっていくのでしょうか?――これからのコミュニケーションを考えることは、これからの広告の形を考えることにほかなりません。彼らが語る言葉の中に、次なる広告の発想の刺激やさまざまなヒントが見つかるのではないでしょうか。あるいは、新しいコミュニケーションにチャレンジしたいときのパートナーとして、力強い味方になってくれるかもしれません。

takram design engineering 渡邉康太郎(わたなべ・こうたろう)
2007年よりtakram参加。最新デジタル機器のUI設計から、インスタレーション、さらには企業のブランディングやクリエイティブディレクションまで幅広く手がける。
“自分”を超え続けるための仕組み
2013年末、ドン ペリニヨンによる招待制ディナーイベント「Creative Collision」が開催された。その日のために制作されたのは、一人ひとりのためにあつらえられたインタラクティブなウェルカム・メッセージ。そのシステム構築と全体のクリエイティブディレクションを手がけたのが、takram design engineeringだ。デザインエンジニアリングから出発した会社だが、最近はブランディングやコミュ二ケーションの領域に関わる仕事が増えている。「このイベントは、takramのこれからの仕事のあり方を示す象徴的な試み。デザインエンジニアリングを前提に“ユーザー体験を作り出す”ことは今後、テーマとして大きくなると考えています」。
同社のユニークな点は、自分たちが編み出した「ストーリー・ウィーヴィング」、「プロブレムリフレーミング」といった手法や概念に独自の名前をつけ、それをプロジェクトに関わる人たちすべてに共有するところだ。「プロジェクトのアウトプットにかかわらず、そこで使った手法や概念を俯瞰してとらえ、名前をつけています。その効果は大きくて、言葉で定めることで、当初意識しなかったものに目が向くようになる。それを否定し、新たに破る力も生まれてくる。これは僕らにとって守破離のようなものです」と、ドン・ペリニヨンプロジェクトのディレクターで、多くの手法の開発者で名づけ親でもある渡邉康太郎さん。