パブリックアフェアーズの担い手は、企業ばかりではない。社会を変えようと立ち上がった非営利団体が、規制の壁にぶつかり、突破しようと行政に働きかける。そんな団体の一つで、成果を出した人に聞いた。
兵庫県篠山市の谷奥の集落に、年間800人の宿泊客が訪れる。
2013年10月、政府が発表した「国家戦略特区における規制改革事項等の検討方針」の中で、速やかに全国規模の規制改革を進めるとされた項目に、「古民家等の歴史的建築物の活用のための建築基準法の適用除外など」がある。提言者の一人である一般社団法人ノオト代表の金野幸雄氏は、元兵庫県篠山市の副市長。副市長時代に、空家になっている古民家などの歴史的建造物を再生し、旅館やレストランに用途転用して活用することで地域の活性化を目指す現在の活動を始めた。55歳で退職する時、古巣の兵庫県職員に復帰する道もあったが、あえてNPO活動に注力することにした。
県や市など自ら行政にいた時は、「内部から行政を変える」と考えていた。行政の「外部」になった今、心掛けているのは、ただ「提言」するのではなく、「実績をつくる」ことだという。そこには、2つの意味がある。一つは、現実の活動に裏打ちされた問題認識に立脚しているため、提言内容が説得力を増すこと。そして、2つ目は、実際に法改正や規制緩和が認められた時、実行可能性が事前に証明されていることだ。「私の場合は、まず空間をつくって見せる。建物とともに、地域の食文化や歴史文化を再生して地域の価値を表現する。外からの提言だけでは、一般的に力を持ちませんから」。