2008年秋のリーマンショック以降、製造業などの派遣社員が雇用打ち切りを言い渡される"派遣切り"がマスメディアによって多数報道され、その言葉が広まった。それまで就労実態を明らかにしてこなかった業界側にも責任がある、との危機感から情報発信を始めた人がいる。日本生産技能労務協会理事で自身も派遣会社を経営する出井智将氏に聞いた。
ロビイングの時には、手前の一般社団法人や政治連盟の名刺を持ち歩く。日本生産技能労務協会では、政策広報委員長を務める。
08年秋以降、「派遣切り」が広く認知され、不本意ながら正社員の職を得られない人々にマスメディアが殺到し、同年年末には複数のNPO法人によって日比谷公園に開設された「派遣村」に職を失った人々が集まり、注目を浴びた。「ここ数年、派遣労働の負の側面ばかりがフォーカスされてしまっている」と出井氏は話す。出井氏によれば、派遣労働者の実態は2種類ある。「不本意ながら派遣就労している人」と「さまざまな事情があってあえて派遣という就労形態を選んでいる人」で、前者は声が大きいのに対し、後者はクローズアップされづらく発信力も弱いが、実際には4割程度に上る。たとえば、家庭の事情、心身に支障があって毎日仕事に行くのが難しいといった何らかの就労リスクを抱えた弱者たちだ。報道の過熱に危機感を覚え、メディアに実態を説明しようと働きかけたが、その反応は鈍かった。「人と企業の間に入って"ピンハネ"するような派遣業は悪だというレッテルを貼り、何を言っても無駄だと思わされることも度々。また、話を聞けば理解できるが、いま世の中で求められている報道は前者だから...と言う記者もいました」。