様々な企業で実施されているメディアトレーニングは今、大学でも注目されている。本誌で「大学広報ゼミナール」を連載中の東洋大学・広報課の榊原康貴氏が10月に実施した「記者会見トレーニング」の模様をレポートします。
まるで本番のようなシミュレーション
10月15日に行われた、記者会見シミュレーションの模様。シビアなケースでの模擬記者会見はまさに本番さながら。記者の準備などはPR会社、会見場の設営や準備は広報課メンバーが総出で対応した。本番と同様に、短時間に誘導や設営、資料準備、登壇者ブリーフィングなどを行った。
現実に起きている錯覚も
「学長の辞任は!?」「死人が出てるんだ!」「補償はどうする!!」─頻繁に明滅するストロボと、怒号やシャッター音が響く修羅場。これは10月、東洋大学で実施した「記者会見シミュレーション」の一コマです。
記者会見が炎上している場面をご覧になったことがある皆さんも多いことでしょう。ここ数年、特に印象に残る記者会見が多く、不祥事や謝罪会見は広報課内ではことあるごとに話題にしています。シナリオはPRエージェンシー危機管理チームと外資に長く勤めた私の上司の監修。今回の「記者会見シミュレーション」は、海外インターンシップ中の東洋大学の学生が飲酒運転の上に追突事故を起こし、巻き込まれた現地のご家族に死者が出た、という設定でした。グローバル化が叫ばれる昨今、学生たちの海外渡航の機会は増加し、海外でのトラブルや不祥事も増加すると予見したシナリオです。
緊急記者会見を実施しなければならない、かなり深刻な状況。まず求められるのは、大学の説明責任だけでなく、インターンシップという正課授業内での責任の所在について把握すること。その上で記者の先にいる世間とコミュニケーションを取るための謝罪会見を体験することが今回の目的です。
関係者へのシナリオの公開は前日。ほとんど準備ができない中、ステートメントの決定、ポジションペーパーや想定QAの作成などを行うという本番さながらの緊迫した状況での実施となります。日ごろ準備していたクライシスコミュニケーションのフローチャートなどの再確認も含め、広報課スタッフ一同で対応しました。待ち受ける記者は15人。スチールだけでなくムービーも配置し、臨場感を高めるために会場に入場制限をするなどの配慮まで。照明が煌々とたかれた雰囲気に圧倒されましたし、司会をする私にも厳しい怒号が浴びせられました。
会見時間は50分、執拗に迫る記者の質問の数々はまさに「針のむしろ」。会見に臨む直前のメディアトレーニングでは、緊張している学長たちに、「最初の謝罪を乗り切れば、9割終わったも同然です」という根拠のない慰めをしてみましたが …