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広報担当者の事件簿

ホテルで発生した爆発事件 広報に迫られる危機対応〈第三編〉

佐々木政幸(アズソリューションズ 代表取締役社長)

    【あらすじ】

    ホテルシーサイドマリーナ木更津で起きた爆発。広報課長の名城亮介は、部下の白坂ひろみから届いたある宿泊客への“違和感”を捜査員に告げた。監視カメラの画像に映っていた不審者について情報提供を募ると、白坂の同期である酒井茉由が手を挙げた。その人物は、ホテルが隠していたある事実ともつながっていて……。

    隠されていた真実

    おかしいと思ったら、躊躇することなくすぐに行動を起こしてください。あなたが躊躇することは会社のリスクに繋がります│危機管理対応の講師が話していた言葉を思い出す。「ありがとう。警察に連絡しておく」上司である広報課長の名城亮介からの返信は意外なものだった。日頃、白坂ひろみの提案や意見に耳を傾けようとしなかった名城から"ありがとう"と言われたことなどなかった。

    羽田空港を飛び立つ直前、自分が勤めるホテルシーサイドマリーナ木更津で爆発が起きるという衝撃的な事態。ホテルの被害はどれほどだろうか。亡くなられた方が宿泊客と職場の仲間を合わせて10人、怪我をされた方がネットニュースで45人と伝えられている。

    まだまだ増えるかもしれない。

    有給休暇とはいえ、こんな時に現場にいない自分を責めてしまう。「着いたばかりなのに、ごめん。明日朝イチの便で木更津に戻る」佐賀の実家に着いてすぐ両親に告げた。「爆発があったんは、やっぱりひろみの職場だよね。死んだ人もおるんよね」また爆発があったらどうするんだ、と母が心配そうな表情をする。「私が行っても何ができるわけじゃないけど、それでも行けば役に立てることがきっとあるから。久しぶりなのに、ごめん……」母は静かに溜息を吐いた。

    「自分が世話になっている会社が爆発したんだ。ここに居ても落ち着かんだろ」母の横に座った父がゆっくりとした口調で話す。「ごめん」白坂が繰り返す。「夏休みが終わったら必ず帰ってくるから」1年ぶりに再会した両親の気持ちを考えると、申し訳なさと寂しさで胸が詰まった。「この男に見覚えはありませんか」捜査員の言葉に監視カメラの画像をのぞく。「私は見覚えがないですね」「ほかの方にも確認していただけますか」プリントされた画像を手にした名城はうなずき、従業員が避難している社員寮まで走る。

    歩いて3分ほどの道程は、暗黒の世界に導かれているようだ。「ちょっと集まってくれ」名城が従業員に向けて声を張りあげる。ホテルシーサイドマリーナ木更津には300人ほどの従業員が働いている。

    爆発時、勤務していた者は133人。そのうち犠牲になった者が3人。フロント担当が2人、ロビーラウンジの...

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