複雑化する企業の諸問題に、広報はどう立ち向かうべきか。リスクマネジメントを専門とする弁護士・浅見隆行氏が最新のケーススタディを取り上げて解説する。
ENEOS HD社長解任 2年連続経営トップの不適切行為
問題の経緯
2023年12月19日
ENEOSホールディングスは12月19日社長の解任を発表。女性への不適切行為が内部通報で発覚した。同社は2022年8月に会長が女性に対する性加害問題で辞任しており、2年連続で同種のコンプライアンス違反での経営トップ交代となった。
ENEOSホールディングス(ENEOS HD)は、2023年12月19日、齊藤猛代表取締役社長兼社長執行役員(当時)が、懇親の場で酔った状態で同席していた女性に抱きつく不適切行為をしたことを理由に、社長から解任したことを公表しました。
ENEOS HDは2022年8月に杉森務代表取締役会長(当時)が女性に対する性加害を理由に辞任したばかりだったこともあり、齊藤社長の解任には、女性の人権を軽視する企業体質なのではないかなどの声も見られました。ENEOS HDのように企業トップによる同種のコンプライアンス違反事案が相次いだ場合、広報は危機管理の観点から何を意識すべきでしょうか。
再発防止の取り組みを具体的に述べる
プレスリリースでENEOS HDは「当社は、昨年度に発生した当時の代表取締役会長 杉森務氏による不適切行為を踏まえ、本年2月27日の当社取締役会で人権尊重・コンプライアンス徹底に関する取り組みの更なる強化・再徹底を決議しております。その一環として、人材デュー・デリジェンスや役員向けハラスメント研修の実施、役員処分手続規則の制定等に取り組んでまいりました」と、2022年8月の事案以後に再発を予防するために取り組んできた具体的内容をまず述べています。その上で、「これらの取り組みの陣頭指揮を執るべき立場にある齊藤氏の上述の不適切行為は到底容認しがたく、当社代表取締役社長 社長執行役員として相応しくないものと判断いたしました」と解任した理由を説明しています。「コンプライアンス違反」などの一般論に逃げずにENEOS HDが取り組んできた内容を具体的に説明していることからも、ENEOS HDが再発防止に本気で取り組んでいた姿勢が伝わります。また、せっかく取り組んでいたのに……という残された者たちの忸怩たる思いも読み取ることができます。
読んだ人には、ENEOS HDに対する信頼を回復することもでき、危機管理広報としては非常に効果のある内容になっていると言って良いでしょう。