非・日常の日常が好きなワタシ
2024年――日本のインバウンド(訪日外国人数)が過去最高を更新した。同年11月の時点で、それまで過去最高だった2019年を上回ったのだ。特筆すべきは、そのリピータだったことである。
「買う」5秒前2
若い女性たちに人気のローストビーフ丼。人気の秘密は見た目のインパクトとヘルシーさ、それとオーダーがラクだから。
イラスト:高田真弓
かつて一億総“霜降り肉”信仰だった日本人だが、近年、欧米人のように赤身の肉にも舌鼓を打つようになった。
火付け役は、2014年2月に六本木にオープンしたニューヨークの人気店「ウルフギャング・ステーキハウス」だ。数週間、保冷庫の中で熟成させた肉は、タンパク質がアミノ酸に分解され、独特の旨味や風味が出て美味しい。霜降りの場合、途中で“飽き”が来るが、赤身の熟成肉だといつまでも食べ続けられる。しかもカロリーは低い。
以来、日本中に熟成肉を提供する店が増えたのは、皆さんご承知の通り。日本人は、“赤身派”という新たな宗派を生むに至ったのだ。
さて、そんな赤身派がここへ来て、さらに数を増やしている。それまでは一部の食通たちの信仰だったのが、若い女性へとすそ野を広げているのだ。キッカケは、2014年秋に高田馬場にオープンした「レッドロック」なるステーキ店である。本拠地は牛肉の本場、神戸・三ノ宮。たちまち行列の絶えない人気店となった。
この店で一躍人気を博したメニューが名物「ローストビーフ丼」である。ピンク色の美しい、薄切りローストビーフを山盛りに盛り付けたビジュアルがインパクト大。客の8割は若い女性である。
このローストビーフ丼が彼女たちにウケたのは、3つの理由がある。1つは、山盛りのビジュアルがSNS投稿の格好のネタになるから。2つ目は、昨今、話題の糖質ダイエットにも通ずる低カロリー。ちなみに彼女たちはこの店で「並。ごはん少な目」と注文するのがデフォだそう。そして3つ目―― 前置きが長くなったが、これが今回の本題で、「オーダーがラクだから」。並盛815円。安い上に、丼ものだから注文がラク。
初期の頃の赤身の熟成肉ブームは、一部の食通たちに限られたブームでもあった。値段は張るし、注文の仕方にもそれなりの知識が必要だった。だから、若い女性たちが気軽に入れる店ではなかった。だが―― ブームのすそ野を広げるには彼女たちのチカラがいる。それには“敷居の低さ”が求められる―― そう、その答えが、「ローストビーフ丼」だったのだ。今や、同種の店が急増し、熟成肉ブームの頃を上回るマーケットが形成されているのが、その証拠である。
若い女性たちの消費行動の背中を押す「オーダーがラクだから」――もちろん、それは飲食店業界に限らず、他の業界も同様である。
草場 滋(くさば・しげる)メディアプランナー。エンタテインメント企画集団「指南役」代表。テレビ番組「逃走中」を企画。著書に「『考え方』の考え方」(大和書房)、「情報は集めるな!」(マガジンハウス)、「テレビは余命7年」(大和書房)ほか。 |
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