広告コミュニケーションが複雑化する中で、求められる本質は、持続する「物語」と記憶に残る「体験だ」―。悩める広告人に向け、現場の経験と言葉で、広告の本質を読み解いた『物語と体験』(宣伝会議刊)の発売を記念し、著者である東急エージェンシーのクリエイティブユニット「TOTB」の河原大助氏、望月和人氏に話を聞きました。
──「物語と体験」が誕生した背景を教えてください。
河原:SNSが登場した2008年あたりから、次々と新しい広告手法が出て、広告をつくる側も広告主も目移りして右往左往する状況が続いていると思います。僕と望月は、これまで様々な部署に所属していて、経験を足し合わせると、広告会社のセクションが全部入りそうなくらいですが、そんな二人だからこそ、広告の機能をあらゆる立場から俯瞰的に見て、本当に大事なことを見極められるのではないか。そう思ってこの本を書きました。
──その"本当に大事なこと"が「物語と体験」なのですね。
河原:人の認知や価値は頭の中に「物語」として残る。どんなに時代が変わろうとこれは普遍的なことです。しかし今の広告マーケティングでは、そこがおろそかにされているような気がする。ですから"あるべき姿"とは何なのかをテーマに書きました。
望月:僕は「体験」のパートを担当しました。マルチディスプレイ化によって若年層への広告接触が年々難しくなっていますが、体験型広告は彼らに深く刺さる傾向が見られつつあります。リアリティや参加性は非常に重要で、彼らを巻き込むくらいの広告がいいのだろうと感じています。
河原:リアリティがなければ信じてもらえない。だから広告で伝えたい"思い"をパフォーマンスとしてきちんと「Doing」することが重要になった。本の中ではそれを、"物語"と"体験"を合わせた「Story Doing」という言葉で表現しています。
望月:概念的な世界観を表現した広告より自分の皮膚で感じられるものへの信仰が深まっています。その意味でも「Story Doing」という言葉はぴったりだと感じました。
河原:新しい手法が登場すると、それが全てになるような論調も出てきますが、現実はそんなに単純ではありません。本書では、広告の歴史やファクトを確認しながら何が本当に重要なのか冷静に分析しています。SNSの大切さも、テレビCMで2000万人にリーチする大切さも知っている、現場の僕たちの経験も照らし合わせながら、執筆しました。
望月:イベントで体験してもらって拡散してもらえば「テレビはいらない」のではなくて、マスのリーチも必要です。デジタルだけでは世の中は動きませんからね。
──最後に、「物語と体験」を、特にどういう方にお勧めしたいですか。
河原:この本は、広告がこれから進むべき方向を示すとともに、広告制作の実務家に役立つように執筆してきました。この本を読んで同じ思いで取り組む仲間が増えてほしいですし、古い事例や参考文献も紹介しているので、若い広告パーソンがそういうものにアクセスする入り口になればいい。何かで迷った時に「ああ、こういうことなのか」と答えが見つけられる。そんな一冊になれたら、これに勝る喜びはありません。
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