2018年に創業100周年を迎える、パナソニック流の宣伝に迫る対談。第11回は「B to Bソリューション・デバイスの広告篇」です。住宅や自動車、流通小売など法人向け(B to B)の分野で様々なソリューションを提供しているパナソニック。対企業に訴える広告は、どのようなアプローチで生み出されてきたのでしょうか。
今回は、日本産業広告賞の審査委員長であり、広告論が専門の早稲田大学 嶋村和恵教授と、パナソニックのB to B広告に携わられた元大広のクリエイティブディレクター・井上実さんの対談です。
専門性の高い技術を インパクトのある表現で
──嶋村先生は広告賞の審査で数多くのB to B広告をご覧になられていますが、パナソニックの広告の特徴をどのようにとらえていますか。
嶋村:広告のテーマをあらゆる方向から持ってくる、表現の守備範囲の広さがあります。一般的にB to B広告は、事業が専門特化している企業の場合、特に表現の幅が限られてしまいがちです。でもパナソニックの広告は、意表をついた表現があって「やられた!」と思うことが少なくありません。どうやってテーマを決めているのか気になりますね。
井上:宣伝部門の方は、時代や世相を映し出すテーマを大事にされていました。いまの時代にパナソニックは何ができるのか、から議論が始まって旬なテーマを探していきます。総合メーカーとして様々な技術があるのは大きな強みで、その中からこれからの社会に貢献できるものは何かを考え、広告につなげるわけです。
嶋村:驚きのある表現に落とし込むまでには時間もかかることと思います。
井上:3次元測定機の新聞広告は、企画が固まるまで時間がかかりました。3次元測定というのは、超微細な加工に不可欠な技術なのですが、単に測定機の特徴を表すだけなら「○○ミクロンまで測定できます」でいい。でも技術のすごさを伝えるには、それではあまりに物足りない。そこで新聞紙に刷られたインクを3次元測定機で測ると、0.023ミリの厚みも、まるで巨大な山脈に見えるという表現にして、技術のすごさを伝えようとしました。
その山脈のビジュアルを探すのが私たちの仕事ですが、これが大変。巨大な山脈といえば、アルプスなどがすぐに思い浮かびますが、そんなものですんなりOKをもらえないのがパナソニック。
「インパクトが足りない」「見たこともないようなものを!」と言われて。ただし表現を探すのは、私たちのような広告会社だけでなく、宣伝部門の皆さんも一緒なんです。そこは公平なんですよ。結局、ギアナ高地のロライマ山の写真を見つけて、やっとのことでメインビジュアルが決まりました。
嶋村:審査をしていると、新聞広告の新しい活用法を提案するような、広告メディア自体を盛り上げる表現にも目を奪われます。パナソニックは印刷媒体ならではの特性を生かした広告もつくっていて、新聞紙を揺らすと「隠れた細菌」が見えてくる細菌カウンタの広告や、新聞を透かすと文字が浮かび上がってくる、光を用いた技術を訴求するシリーズ広告も印象に残っています。
2017年に日刊工業新聞広告大賞を受賞した広告は、無電化の村の子どもたちが直面している課題とその解決策が示されていました。有害な煙の出るランプのもとで勉強する子どもの様子を描いた紙面を折り曲げると、視覚的にソリューションが理解できるような仕掛けでした。
井上:本来パナソニックにおけるB to B広告の役割は、電子部品や生産技術などの情報をストレートに伝えることにあったと思います。性能やスペックが明示されていれば技術者に伝わるので、時代性や共感なんていらないのが普通です。
ところが取引先が広がっていくにつれ、広告表現もよりB to Cに近づいていったと思います。顧客は技術者にとどまらなくなり、生産管理部門や経営戦略部門、経営者のこともある。そうした流れの中で、B to B to Cの最終消費者であるコンシューマーの未来を描くような広告も多く出て来ているのでしょう。
嶋村:B to B広告を出稿する狙いには、取引先となり得る企業からの信頼を得るだけでなく、リクルート対策という側面もありますね。B to B企業は、残念ながら学生の知名度が低く、世界的に有名でいい事業をしていても新卒採用がしにくいケースがあります。パナソニックの場合は認知度がすでに高い企業ですが、こうした広告は、B to B事業について学生が知る機会になるでしょうし、働いている社員の方のモチベーションアップにもつながるはずです。
B to B広告は、人気タレントを起用するB to C広告のような派手さはありません。でも、エモーショナルに訴えかける広告もあって、アイデアで勝負している。それが明快で潔いと思いますし、論理性がありながら情緒に訴えるのは、B to B広告ならではの面白さだと思います。
井上:アイデアを出すにはまず、訴求する専門性の高い商品や技術について熟知しなければなりませんが、当時の制作スタッフは文系が多く「これは何でしょう?」というものばかり。勉強してブレーンストーミングをして、やっと表現を考え始めるわけです。
嶋村:理系ではない人が広告をつくるからこそ、技術者にとっては当たり前と思っていることにも気がついて、表現の幅が広がっているのかもしれませんよ。
井上:そうですね。表現のヒントを得るために、パナソニックの技術担当者に話を聞きに行くのですが、理解できないことが出てくると「言い換えたらどうなります?」とたずねるんです。そうすると「やっぱりわかりにくいか」と言いながら、「例えばタワシがね…」とか、わかりやすく話してもらったものです。「例えば作戦」はいい方法でした。
嶋村:比喩を使うとか、昔話になぞらえるとか、いろいろと方法はありますね。「あなたの骨は、70歳に見えます。」のコピーで、骨格がハイヒールを履いている広告も取材をしながら出てきたアイデアですか?
井上:これは取材時に事業部の開発室で、人間の骨格を見つけたことがきっかけで生まれました。X線骨密度測定技術の広告で、実用例として骨密度をかかとで瞬時に測ることができる測定機を紹介したものです。高齢化が各方面から語り出された時代でした。ビジュアルにインパクトが出せたのでこの企画は一発OKでしたね。
日本のBtoB広告をけん引していくために
──―パナソニックは家電の会社というイメージを持たれている方もいらっしゃると思いますが、家電以外の売上が7割強を占めます。
井上:B to B商品は、企業のビジネスを支援するものですから、B to Cに比べて陰の存在になりがちです。ですが事業においてもメインストリームですし、B to B広告自体が、経営の根幹を表す企業広告やブランド広告に近くなっていると思います。
小さな電子部品から住宅用品、システム構築、社会インフラまで、パナソニックには膨大なB to Bの商品がありますが、その広告はどこを切り取っても、パナソニックの人格を表すようなものであってほしい。その意味でB to B広告は、個人が個人に伝える"C to C広告"のようなものであってほしいと思います。
嶋村:パナソニックを企業市民ととらえて、直接、消費者に伝えようということですね。そう考えるなら、B to B広告を専門紙だけに掲載するのはもったいないと思います。交通広告として空港などに掲出したり、消費者向けのメディアにあえて掲載したりしてもいいのではないでしょうか。先ほどの3次元測定機のような専門性の高い商品や技術は、消費者には直接関係のないものかもしれませんが、その広告は「目からウロコ」の話であり、一般の人が読んでも面白い。
パナソニックというブランドに対する見方が変わるきっかけになるかもしれません。パナソニックには、他の企業をけん引するような広告にこれからも挑戦してもらい、B to B広告全体の底上げに貢献してほしいです。
Future 現場のお役立ちを、トータルに提供
少し意外かもしれませんが、松下電器創業前の1917年、扇風機のスイッチなどを取り付ける絶縁盤「碍盤(がいばん)」を製造・納入して以来、パナソニックはB to B・デバイスのメーカーでもあり続けています。
現在、家電以外の売上が多くを占めるパナソニック。実装機をはじめとしたFA機器など、製造に特化された技術で育まれた商品もあれば、セキュリティカメラやデジタルサイネージのように、家電製品で培った技術がB to Bに生かされるものもあります。
常に現場のニーズに最適な商品をお届けしてきましたが、現在はそれらのプロダクトを組み合わせて、顧客のお困りごとを解決するためのソリューションの提供を行っています。エッジデバイスを起点に、技術と経験に裏付けられた、パナソニックにしかできない価値を提供する。そのために技術者とお客様とがダイレクトにつながる環境をつくっています。