クリエイティブ産業の課題
日本マーケティング学会の活動の中心となっているのがテーマを絞った研究会の「リサーチプロジェクト」と11月10日に早稲田大学で開催される大会「マーケティングカンファレンス」である。このうちリサーチプロジェクトについては、10月号で紹介した「ソーシャル・ビジネス研究会」、11月号で紹介した「価値共創型マーケティング研究会」のほかに、「地域活性化マーケティング研究会」「医療マーケティング研究会」「東南アジア・マーケティング研究会」「観光・地域マーケティング研究会」「ブランド&コミュニケーション研究会」、そして「クリエイティブ産業とイノベーション研究会」の8つのテーマで現在稼働している。
この中で、最もマーケティング学会らしい研究会は何かと聞かれると、「クリエイティブ産業とイノベーション研究会」を挙げる人が多いのではないか。マーケティング研究では新しい領域であり、来る11月10日の「マーケティングカンファレンス」でもセッションが設けられるなど、学会員の注目を集めている。
この研究会の目的は、デザイン産業やコンテンツ産業、ファッション産業、エンターテインメント産業など、日本のクリエイティブ産業の現状と課題を多面的に検証し、ものづくり競争力との連携についての未来の可能性を探究することにある。
日本のものづくりの国際競争力が低下してきた一因として指摘されているのが、機能主義への過度な依存であろう。例えば、戦後の日本のデザイン産業は、製造業や建設業との二人三脚によって世界のトップレベルの実力を持つに至ったが、その実力が日本発イノベーションの実現に十分に活かされていないといわれている。同様に、経済産業省のクールジャパン戦略に見られるように、アニメやファッションなど日本のソフトパワーの実力は世界で認められてきているものの、それがものづくりの国際競争力と連携する事例は非常に少ないのが現状である。一方で、韓国では、韓流のクリエイティブ産業と家電産業や自動車産業が密接に連携して高い競争力を発揮しており、日本とは対照的な状況になっているようである。このようなことからも、イノベーションを的確に市場に浸透・普及させるために、優れたデザインの重要性が再認識されてきていることが背景にある。
海外展開が十分ではない
一橋大学の鷲田祐一准教授をプロジェクト・リーダーに、一橋大学の古川一郎教授、同大学の松井剛教授と上原渉准教授、元経済産業省クリエイティブ産業課の三原龍太郎氏、成城大学の金春姫准教授の5人が企画運営メンバーとなり活動している。去る6月28日「日本のクリエイティブ競争力はどの程度か?」をテーマにした研究報告会を実施した。
研究報告会では、まず、企画運営メンバーの三原龍太郎氏がクリエイティブ産業振興の一環として行われている経済産業省のクールジャパン政策の現状を報告、続いてプロジェクト・リーダーの鷲田祐一准教授が日本のデザイナーの実態について紹介した。その後の質疑応答を交え、研究報告会での議論を通して、日本のクリエイティブ産業全般が依然として海外展開が十分ではなく、海外における日本のクリエイティビティの人気を収益につなげられていない現状が浮き彫りになった。
11月10日の午前中に予定されている「マーケティングカンファレンス2013」の「クリエイティブ産業とイノベーション研究会」セッションでは、プロジェクト・リーダーの鷲田祐一准教授とプロジェクト・リーダーの松井剛教授による報告「デザインはイノベーションを伝えることができるか?」と「クリエイティブ産業の海外展開における異文化ゲートキーパーの役割」を中心に議論を行う予定である。
研究会では、日本のクリエイティブ産業の現状を把握する一方で、日本のクリエイティブが海外で高い評価を得ている理由や実態を概観し、なぜ日本の企業経営においてこれらクリエイティブ産業をものづくりの国際競争力に活かせないのか本質に切り込む論理構築の推論を試みている。今後の議論に期待したい。