パナソニックは、2018年に創業100周年を迎えます。パナソニック流の宣伝に迫る対談、第2回は「電池の広告」篇です。電池は創業間もない頃から始めた事業。同社は長年にわたって進化させてきた電池を使った様々な挑戦を行い、その過程で起こる驚きや感動を、これまで広告として発信してきました。製品に潜むパワーを示す実証型の広告は同社のアイデンティティーともなっています。今回はそんな電池の広告に携わってきた元・博報堂の橋本哲夫氏と、エボルタロボットの開発者・高橋智隆氏の対談が実現しました。


(左)高橋智隆氏 (右)橋本哲夫氏
製品を使ってできることを面白く見せる
─ パナソニックの電池ブランド「エボルタ」のキャラクター、エボルタロボットは、様々な広告で活躍しています。高橋さんは、ロボット開発のオファーがあった時、どのように感じられましたか。
高橋:CGがあたりまえの時代に、あえて本当のロボットをつくろうという姿勢がすごいと思いましたね。最初の企画は、乾電池2本で動くエボルタロボットが、ロープを使って断崖絶壁のグランドキャニオンを登るものでした。
実際挑戦してみると大変で、ロボットの膝がずれて止まってしまったり、大雨や寒さで本来の力が発揮できなかったり、3回、4回と失敗が続いて、追い詰められました。でもその時に、パナソニックの宣伝担当の方から「たとえ失敗しても、挑戦している証になるからかまわない」と言葉をかけていただいて、パナソニックさんの覚悟を感じましたし、改めて実証することへの決意が固まりました。そしてロケ最終日、6回目の挑戦でなんとか頂上までたどり着き、成功したんです。
この企画に携わることになった際に思い出したのが、ナショナル乾電池「ウルトラネオ」で、おもちゃがレガッタのボートを漕ぐCMでした。その系譜に連なるCMに参加できて、嬉しく感じたことを覚えています。
─ そのレガッタのCMを制作されたのが、橋本さんですね。
橋本:乾電池の力強さや長持ちを伝えるために、製品でできることを面白く見せてあげようと考えていました。当時ナショナルの乾電池は、すでにブランド力もありましたから、面白いことをして話題になればおのずと売れていくだろうと。小難しい演出をしていないから、いつ誰がこのCMを見ても、古さを感じずに面白いのです。
高橋:乾電池のおもちゃを使ったCMはほかにもありますね。
橋本:始まりは、消防士のおもちゃがビルを登っていくCMでした。パナソニックの宣伝担当の方は、作品をより良くしようといつも様々な意見をくださるのですが、これも最初はおもちゃにロッククライミングをさせようというアイデアだったんです。そこで担当の方が「高いビルに登ったら面白いんじゃない?」と言われて、私も「その手があったか」と思いました。
CMで登ったのは、33階建てのビルですが、高さでいえば、約140メートル。実は乾電池で動かす距離としては、140メートルはそう難しくはないのです。
高橋:そうですね。
橋本:でも、横ではなく上に動かすとみんなびっくりしてくれるんですよ。
高橋:この消防士は、市販のおもちゃをそのままCMに使ったのですか?
橋本:少しつくり直しました。電力の流し方を変えて、消防士の顔も変えましたね。もとは猫の顔だったのですが、パナソニックの方が自ら描いて、持ってこられたんです。それがとても良くて、「これでいこう」となりました。このおもちゃは、キャンペーンのプレゼントにもなりましたね。
高橋:宣伝担当の方が描かれたものだったんですか。すごい熱意ですね。
橋本:乾電池のおもちゃが泳いだり、峡谷を渡ったり、山に登ったり。ひと通りアイデアが出尽くしたので、今度は乾電池で重いものを引っ張ろうと、元力士のKONISHIKIさんを起用したCMもつくりました。

1986年 テレビCM「漕げよ! ウルトラネオ」

2008年 テレビCM「グランドキャニオン」

2010年 テレビCM「東海道五十三次」
知的な感動を与え続けてほしい
高橋:おもちゃを使った乾電池CMの発展形としてエボルタロボットを制作するときに意識していたのは、キャラクターをつくることでした。同じキャラクターが次々に違うことに挑戦すれば、シリーズとしてつながりが出やすいと考えたのです。エボルタロボットは、グランドキャニオンの後に、ル・マンのサーキットで24時間走行、東海道五十三次の走破、トライアスロンと続きましたが、同じエボルタロボットが挑戦することでストーリー性が出てくるんですね。
橋本:エボルタロボットは、どのようなキャラクター設定ですか。
高橋:好奇心旺盛な冒険家です。当初は、作りもシンプルですし、「これでロボットといえるのか?」「おもちゃではないか?」と批判が出ることを心配していたのですが、ふたを開けてみると、周囲は健気に動くエボルタロボットに感情移入していて、ロボットかそうでないか、といった議論は起きませんでした。
橋本:エボルタロボットにセンサーや、人工知能が入っていたら面白そうですね。表情付きで、「よいしょ!」と声を発するとか。今後に期待しています。
─ パナソニックでは乾電池だけでなく、リチウムイオン電池や水素を活用した家庭用燃料電池も販売し、医療や住宅など幅広い領域で電池が使われています。
高橋:それがBtoB商材の宣伝であっても、エボルタロボットのようなキャラクターを使ったアプローチはあり得ると思います。そもそも電池は形が決まっているものなので、個性を出すには、限界があります。そのとき、キャラクターを与えると印象に残りやすくなるでしょう。
橋本:電池は、元来人の生活に近い製品ですよね。いつでも使えて裏切らない。未来を切り拓く夢が詰まっています。電池によって生まれる楽しさ、そして信頼感を伝えていってほしいです。
─ 100周年を迎えるパナソニックのこれからの宣伝活動に期待することは?
橋本:最近のCMを見ていると、製品の優れたところを、面白く、しかし誇張はせずに見せることで、しっかりと世間に知らせていくパナソニックの宣伝の"らしさ"が生きているなと感じています。
高橋:CMに限らず、製品の良さを実証していく宣伝は、一消費者としても面白く見ています。知的な感動を与える、「すごいな」と思わせる宣伝をし続けてほしいです。

1983年 テレビCM「そこにビルがあるからだ」

2005年 新聞 家庭用燃料電池

2012年 新聞 太陽光発電システム
Future 電池が拓く、明日の「水素社会」
1923年、自転車用「砲弾型電池式ランプ」の開発から始まった、パナソニックの電池事業。以来、90年以上にわたって培い、蓄積してきた電池技術は、環境の世紀といわれる今、エネルギーの枯渇や地球温暖化など様々な問題の解決に貢献する、キーデバイスとして注目を集めています。
例えば、電気自動車やハイブリッドカーを動かす「リチウムイオン電池」。世界の自動車メーカーが、急速に環境対応車の生産にシフトする中、その性能で、世界トップシェア※を獲得しています。また2009年、都市ガスから水素を取り出して発電する「家庭用燃料電池」を世界に先駆けて発売。さらに光触媒を使って、水から水素をつくり出す「光水素生成技術」を開発し、実用化に向けて取り組んでいます。
持続可能でクリーンな、明日の「水素社会」へ。パナソニックの電池技術が、未来の扉を開きます。
※2015年度車載用リチウムイオン電池の容量ベースにおいて

2015年 新聞 純水素燃料電池技術

高橋智隆(たかはし・ともたか)
ロボットクリエイター。エボルタロボットの開発者として、グランドキャニオン登頂など、実証系の様々なCMの制作に携わった。現在、ロボ・ガレージ代表取締役社長、東京大学先端科学技術研究センター特任准教授、大阪電気通信大学情報学科客員教授などを務める。

橋本哲夫(はしもと・てつお)
元クリエイティブディレクター。1969年、博報堂に入社して以来、長きにわたってパナソニックのCM制作に携わり、「そこにビルがあるからだ」などを手がけた。ACC賞グランプリや、カンヌライオンズ金賞など受賞。関西支社MD局長を経て2003年退職。