VS構造で語られることの多かった「デジタル」と「アナログ」。デジタルシフトが叫ばれてきたが、デジタルだけに閉じた施策に行き詰まり感を抱き始めるマーケターも増えてきた。データドリブンでありながら、デジタルとアナログを組み合わせたマーケティングのあり方とは?日本郵便の鈴木睦夫氏主催のもと、デジタルチャネルとDMを組み合わせた効果を検証する「フルチャネルコミュニケーションプロジェクト」で実施された2社の実証実験を通して見えてきた可能性に迫る。
「対立」ではなく「共存」
石野:法人向けの名刺管理サービス「Sansan」のマーケティングを担っています。ここ数年で事業が急成長したことに伴い、人も扱うデータ量もどんどん増えてリードデータベースが重複したり、さまざまなデータがそれぞれのチームや部門で管理されていたので、手作業が増えて管理工数がかさんでしまっていることが問題に。それらを解決するツールとして、1年ほど前にMAツールを導入し、マーケティングプロセスの再構築を図りました。その結果、受注件数は半年間で倍になりました。
小関:MAによりデータベースが統合されたことで、それまでの倍ほどのアプローチ策を走らせることに成功し、最終的に受注件数を増加させたのだと思います。
石野:一方で「オンラインnotアクティブ層」が顕在化し、オンラインだけでマーケティングをしても、アプローチができないお客さんがいるという課題が浮き彫りになりました。この層へ有効なアプローチ方法がないか探していたとき、日本郵便さんの「フルチャネルコミュニケーションプロジェクト」のお話をいただいて、オンラインで反応をしない層に対して、DMというものが効くのかどうか、実験をしてみました。
大木:具体的な内容としては、2016年7月に、「メールのみ」「DMのみ」「メールとDM」という3つのグループに分け、実際にそれぞれ施策を打ちました(図1)。
DMの表現は、クリエイティブがジャンプしすぎていると、何がよかったのかわかりにくくなるので、極力シンプルに仕組みの評価をできるよう留意しました。メールとDMの組み合わせとは、本件では「手紙はご覧いただけましたでしょうか」と、DM到着日にフォローメールを届けるかたちとしました。蓋を開けてみたら、メールよりもDM、DMよりもDM+メールの方がクリック率が高く、アクションの喚起につながっていることが分かったんです。
石野:圧倒的な受注貢献がありました。また、具体的に検証を通して得られた気づきは3点。(1)メールで届かない層へのリーチ、(2)反応期間の長さ、(3)シャワー効果です。(2)に関しては、送ってから6カ月経った後でもDMからアクセスしてきているお客さまがいたり、(3)については、届いたDMが上司から部下に渡されたり、触れる物が届くことで部門内に拡散できるといった効果が見受けられました。
鈴木:そのまま放っておいたらコールドリードと判定されて、商談すら起こらなかったボックスだったのに、実はホットリードとされていたものよりも、リード率が良かったという結果には驚きましたよね。
大木:今回のSansanさんの取り組みは、マーケターの方々に気付きを与えると思うんです。従来はオフライン・オンラインで部署や担当が分かれているケースが結構多い。オンライン担当なら、オンラインの世界で課題を解決しようとするし、逆もまた然りです。でも今回のようなケースを知って、「アナログ」「デジタル」の両方を組み合わせて課題解決してみようと考える方も増えるのではないでしょうか。
石野:このプロジェクトに入ってからは、「アナログ」と「デジタル」の関係が対立ではなくて共存だということを肌で感じました。
鈴木:今ユーザーセントリックの時代だと言われていて、ユーザーが主体であるなら、やれデジタルだ、アナログだと考えるのがおかしくて。色々な手段で、たくさんのストーリーを考えていくことが当然で、今の潮流だと思うんです。そうしたら「アナログ」と「デジタル」をなぜ組み合わせないのかという話ですよね。その本質に皆が気づき始めている。でもやり方がわzからずに何をすべきか漠然とした不安を抱えているのだと思います。
メールを送る感覚でDMを活用
藤堂:私は富士フイルムのデジタルマーケティングに特化したグループにいて、近年ではフォトブックやフォト関連グッズなど、ネットプリントサービスを提供するECサイトの運営なども行っています。そこではメルマガなどオンライン施策を中心にコミュニケーションを推進しているのですが、メルマガの受信を可としていても開いていない層、そもそもメールを拒否している層が多くいることに課題を感じていました。
普段デジタルマーケティングを駆使して30種類ほどのメルマガを送り、随分費用と時間を割いていますが、メールが拒否されている状態では何のアプローチも届きません。そんな状況下でプロジェクトに出会い、オンライン施策ではリーチし得ない層にDMという"フィジカル"な方法を使った2つのテストを実施することにしました。
大木:1つは、オンライン施策はリーチしないけど、サイトに訪れ商品を購入してくれる優良顧客に向け、お礼の気持ちを込めてアプローチし、クロスセルを狙っていくもの。2つ目は、年賀状作成の時期に新規顧客となりながら、それ以降コミュニケーションを届ける術がないお客さまにDMで情報を伝えて、「2回目」の利用を促すことを目指したものです。
Sansanさんの実験の時に構築された仕組みをベースに考えつつ、DMに個別のURLを発行して、アプローチするとLPページの方できちんとセッションが取れるようなかたちにしています。
藤堂:また、今当社ではハドゥープ*を利用して膨大なデータを瞬時に分析できる環境をつくっています。このハドゥープの環境とマルケトさんのMAの仕組みを利用して、購入完了までを丁寧にアナログとDMを掛け合わせてアプローチをしていこうと実際に実験を続けていて(図2)、現時点ですでに利益が生まれてきている状況です。
小関:カスタマージャーニーの中で、ユーザーに合ったタイミングで「アナログ」「デジタル」それぞれの顧客接点を通じてお客さまとコミュニケーションを取ったことが成果につながっているのだと思います。
鈴木:DMって古いイメージを持たれがちですが、新しい戦法でもあると思うんです。昨今のデジタル技術と環境の進展によって、より緻密なターゲティングと適切なタイミングがわかるようになりました。しかもMAなどの新たなデジタルツールによって、メールを送るのと同じような感覚で簡単に送れる仕組みが構築されている。そうした点を踏まえ、いまコミュニケーション施策の中のひとつのツールとしてDM活用に取り組まれる企業が増えているのだと思います。
お問い合わせ
日本郵便株式会社
フルチャネルコミュニケーションプロジェクト
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