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顧客視点でコミュニケーションを考えると、宣伝部の役割が拡張していく

小和田みどり(ライオン)x 徳力基彦(アジャイルメディア・ネットワーク)

マス広告を中心にしたマーケティングが重視される傾向にある一般消費財メーカーであるにもかかわらず、一人ひとりの顧客と関係をつくる施策にも、積極的に取り組むライオン。売上のことを考えると、顧客に役立つ情報を発信するためのメディア運営や、商品のファンと交流するプログラム運営などは、マスを相手にしない分、非効率なコミュニケーションに見える。ライオンではなぜ、このような取組に挑戦しているのか、その背景や狙いについて、宣伝部長の小和田みどり氏に、話を聞いた。〈インタビュアー:徳力基彦氏(アジャイルメディア・ネットワーク)〉

メッセージが届いても受け取ってもらえていない

小和田みどり(以下、小和田):私は今の部署で2015年から広告コミュニケーションの変革に取り組んでいます。部長に就任した当時に抱いた懸案は「かつてのように、マス広告が届いていないのではないか」ということでした。もちろんマス広告のリーチ力は圧倒的ですが、消費者の情報収集環境が激変する中、より緻密な戦略が必要だと考えました。

商品パッケージは宣伝部の中に制作チームがあるので、商品の開発段階から関わっていましたが、そのほかのクリエイティブは宣伝部が川上から関われていない。そのために「コミュニケーションがバラバラ」になってしまっているのではないか、と考えました。

徳力基彦(以下、徳力):「商品ができたので、テレビコマーシャルの制作をお願いします」というリレー方式になっているという話はよく聞きますよね。

小和田:そしてもうひとつ、今は情報があふれている時代ですから、コモディティ商品の情報に興味を持ってくれる方は非常に少ない。たとえば、洗剤なんてどれも一緒だから、いつもの詰め替えでいいと思っている。そんな人たちに商品の特性を伝えても、振り向いてはもらえません。広告が届かないのではなく、届いてもメッセージを受け取ってもらえていない可能性もあるわけです。

徳力:なるほど、伝えたつもりでも実は伝わらないわけですね。

小和田:そうなんです。「では、何を言ったらメッセージを受け取ってもらえるのだろう」と考えました。そこで、スペックを伝えるのではなく、どうやったら使ってもらえるのか、この商品を使ったらどんな気分になるかといった視点から、体験したくなるような価値を届ける必要があると気付いたのです。もちろん、競合商品と比べて一目でわかるくらいの機能の差があれば別ですが。

こうした考えのもと、試行錯誤の結果として生まれたのが「NANOX(ナノックス)」という洗剤のブランドのコミュニケーションです。"汚れ"を仮想敵にして、「"汚れ"からの挑戦にみんなで受けて立とうよ」というコンセプトです。それを顕在化させ、「一緒に戦おう!」というメッセージで2016年2月からキャンペーンをスタートさせました。

コミュニティ運営でコモディティ商品のブランドスイッチを促進する

徳力:ライオンさんの2017年12月期連結決算は増収増益で、「NANOX」の売上伸長も大きく寄与していますよね。

小和田:商品の存在意義をきちんとお客さまに理解していただくこと、そのブランドが顧客に貢献できることは何なのか、をはっきり認識することが重要だと考えています。「NANOX」のケースはブランドのストーリーを丁寧につくるところから始まったのが結果的には良かったと思います。

徳力:丁寧につくるのは担当者の方からすると大変だと思いますが、結果が出るのであればやる意味があることが明確になり、とてもいいことですね。

小和田:もうひとつ、うまくいったポイントは「ファンづくり」です。「ライオントップファンコミュニティ」という洗濯のコミュニティを立ち上げました。「洗濯という狭いカテゴリーでコミュニティが本当に必要なのか」という意見もあったのですが、差別化しづらい商材であるからこそ、コミュニティをつくって、顧客の中に深く入っていかないと、ブランドスイッチが起こるわけがないと考えたのです。このとき、ファンの人数を拡大することを目的にせず、深いコミュニケーションをとるやり方ができたのも良かったと思います。

徳力:興味深いですね。従来のマス・マーケティングだと、いかに多数の人にリーチできるかが重要でしたし、テレビCMの投下量を流通との交渉材料にし、棚を取って、商品を並べられれば売れるという成功方程式があったと思います。そこを「NANOX」においては、マスだけでは差別化できないので違うアプローチにもチャレンジする。

あえて小さいコミュニティで、いかにライオンが洗濯のことを真剣に考えているか、「NANOX」がどれほど本気で洗濯のことを考えているか、というブランドのストーリーをしっかりと伝えていくということですよね。ちなみに、このコミュニティ運営のKPIはどのように設定されているのでしょうか。

宣伝部では売上に直結しない コミュニケーションに、あえて取り組む

小和田:KPIというと、数字として把握できるポイントだけを重視しがちですが、私はどれくらいの人が深くファンになっているのか、その人が本当に顧客になってくれているのかが大事だと思っています。そういったファンを中心に、本当に一人ずつかもしれないけれど、輪が広がっていけば、それは最終的に大きな売上に結びつくと思います。もちろん今日明日すぐに結果は出ません。

だからこそ、実務として目の前の売上を追う部分と、長期的に顧客と手をつなぐ部分の目標値は分けたほうが良いと思います。「コミュニティの登録者を3万人から5万人に増やす」ことが目標になってしまうと、人数を増やすためのマス・マーケティングになってしまいます。だから、あえてそこのKPIは設けていません。

徳力:なるほど、面白いですね。あえて設けない。たしかに、最終的には売上を上げたいので、KPIは数字で管理するのが普通ですが、ファンが安心してリピート購入してくれている売上と、たまたまキャンペーンで伸びた売上とでは意味が違いますから。ファンをつくってファンの購入を増やせれば、簡単にはブランドスイッチをしないので、長い目で見るとそちらのほうが売上につながるかもしれませんね。

小和田:各事業部では当然、売上がミッションになっています。今日明日の売上が大事です。だからこそ、我々宣伝部は逆のミッションを持つべきである、とも言えると思います。売上に直結することは、事業部主導で取り組んでもらい、宣伝部では、事業部では捉えきれない部分を受け持っています。

徳力:「NANOX」の事例でも、テレビコマーシャルは投下するけれども、コミュニティ運営も実施するべきだから、その予算配分も考えるのが宣伝部の役割、ということですね。普通の企業の宣伝部は「リーチ」がKPIとなることが多く、とりあえず、「マス広告をやり続けていれば、それでいい」となりがちな印象が強いですが、まさに小和田さんはライオンにおける宣伝部の役割を拡張されているのだと思います。

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ライオン 宣伝部長
小和田みどり氏

山形県出身。東京女子大学文理学部卒。ライオン入社、衛材事業本部、家庭品事業本部商品部、マーケティング本部ビューティケア事業推進部を経て2000年8月に同本部宣伝部。2006年12月ヘルスケア事業本部ビューティケア事業部、2008年10月イシュアを立ち上げ出向、同社社長、2010年ライオンヘルスケア事業本部統括部企画室長を兼任、15年1月から現職。

アジャイルメディア・ネットワーク 取締役CMO ブロガー
徳力基彦氏

NTTやIT系コンサル等を経て、2006年にアジャイルメディア・ネットワーク設立時からブロガーの一人として運営に参画。「アンバサダーを重視するアプローチ」をキーワードに、ソーシャルメディアの企業活用についての啓発活動を担当。2009年2月に代表取締役社長に就任し、2014年3月より現職。ブログ以外にも宣伝会議advertimesのコラム連載等、複数の執筆・講演活動を行っており、著書に『顧客視点の企業戦略』『アルファブロガー』等がある。

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