ファストファッションの台頭やブランド販売チャネルの多様化、また消費者売買ビジネスの活況などもあって、消費者とファッションとの距離感が変わってきている。かつてファッションは時代を象徴する存在だったが、いまやその存在感すら薄れているような状況でもある。そうした時代背景を読み解きながら、なぜファッションが売れなくなったのかを考察する。
2016年は衣料品の販売不振が深刻化し、店頭セールやECセール、別会場のファミリーセールが氾濫して"価格崩壊"状態となった。また正価販売の拡大を狙って2013年から業界が仕掛けた期末バーゲン後倒しも積み上がった在庫に押し戻されて元の木阿弥に。ブランドの廃止や大量閉店、希望退職が広がるという事態に陥った。一体どうして衣料品はここまで売れなくなったのだろうか。
衣料品が売れなくなった5つの要因
第1の要因は、需要量をはるかに超えた業界の過剰供給だ。
1990年ごろは輸入と国内生産を合わせて12億点弱を供給し、11億5000万点強が消費されることで全体の96.5%がさばけていた。供給量は年々増加して2016年度は27億2600万点となったが、消費量は13億1300万点に留まった。バーゲンをしても、ファミリーセールを乱発しても、アウトレットに回しても、半分以上が残ってしまう。そして、中古衣料としてトン単位で東南アジアに売られるという悲惨な事態に陥っている。
この四半世紀で消費数量は13.8%の伸びに留まったのに対し、供給数量は228%にも急増したのだから、在庫があふれて価格が崩壊してしまうのも必然だった。
第2の要因は"お値打ち感"の著しい劣化。
供給が過剰になって値引きロスや残品ロスが肥大化するにつれ、その分を見込んで価格を上げたり原価を切り下げるという悪循環に陥った。その結果、どんどん「お値打ち感」が劣化して売れなくなっていったのだから、業界の自業自得と言うしかない。
1990年代初期は33%程度だった百貨店ブランドの原価率は10ポイント前後も切り下げられ、2000年頃は37%~40%だったSPAの原価率も27%~33%まで切り下げられ、中には18%程度で調達してタイムセールの乱発で消化するチェーンもある。消費者の割高感も限界に達し、万年セールの"価格崩壊"という状況に陥っている。
第3の要因は素人目にもわかる同質化だ。
クリエイティブなブランドや高級ブランドを除けば、開発コストを抑え、市場対応の機動性を確保すべく、自社のデザインチームを圧縮したり、バイヤーやMDしか抱えない企業が多くなった。企画も生産もアウトソーシングするOEMやODMが一般化したため、似たような商品が出回るのが当たり前になっている。
とりわけ有力商社が素材や縫製工場をお膳立てする商社OEMでは、ブランドが違っても同じアイテムなら素材も仕様も同じでディティールだけ申し訳程度に異なるという、極端な同質化が繰り返されて来た。これでは商品の差異など伝わるはずもなく、勢い値段の競争に陥らざるを得なかった。
第4の要因はデザインの陳腐化だ。
2011年の東日本大震災以降、等身大の消費を求める志向が強まった。結果、デザインがベーシックなものに流れ、さらに2014年以降は世界的にノームコア(デザインを抑制してゆるく作り、着やすく、売りやすくしようとすること)トレンドが拡がって一段と加速した。これが同質化を促し、ファッションが陳腐なものになってしまった大きな原因だ。
消費者のタンスには似たような衣料品があふれており、正価で購入したくなるような商品が限られていったのではないか。
第5の要因は"ファッションシステム"の崩壊だ。
かつてはファッション業界と取り巻きのジャーナリストなど一般消費者より半年もトレンド情報が先行する特権階級が情報を操作し、上から目線のファッション情報に大衆が踊らされるという"ファッションシステム"が成立していた。
しかし、ネットを介した情報が氾濫する今日では業界と一般消費者の情報時差が消滅し、ソーシャルメディアを駆使するアマチュアがプロを凌駕する状況で、業界がトレンド情報を下げ渡すという"ファッションシステム"も崩壊してしまった。情報格差が消滅した分、業界が仕掛ける付加価値も通りづらくなったのだろう。
さて、衣料消費の不振を招いた上記の5つの要因だが …