外出制限やイベントの中止など、誰もが想像できなかったことが起きている今、企業やブランドの在り方も大きく変わっている。ブランドはどのような振る舞いをすべきなのか。2019年カンヌライオンズのクリエイティブストラテジー部門の審査員も務めた清水武穂氏が解説する。
「生物としての安全欲求」と「生きる意味をつくる自己実現欲求」
2020年は「予測不可能な時代」そのものであり、誰もが先の見えないなかで、目の前の課題に対して「救急の止血策」か、それとも今後の模範解答になるであろうアプローチか、不安を抱えながら日々トライアンドエラーを繰り返しているのではないでしょうか。この状況を生き抜くブランドになるうえで、私自身日々の業務や考察から見えてきたものがあるので、そこから得られた観点を共有したいと思います。
Withコロナが混乱期から定着期に移行・変容するなか、大きな変化と言えるのが、「安全の担保」が全ての経済活動・文化活動の基本要件に加わったことです。
飲食店などの店舗に入店する際、マスク着用、さらには検温と消毒をして、顧客自身が安全であることを示し、その店舗自体も安全であることを証明するようになるなど一体誰が想像したでしょうか。これらの行動はPostコロナの頃には当たり前になると思いますが、企業側は今まで以上に「安全」を提供することがマストになり、顧客側は自らが安全であることを証明し、(群れから)排他・差別されないために「無害」にならなければなりません。
つまり、全ての価値提供者は、「マズローの欲求五段階説」の中でも、これまでは気に留めてこなかった「生物としての安全欲求」を満たすことを最低条件として意識せざるを得なくなり、その上で「生きる意味をつくる自己実現欲求」を満たすことが求められるようになったのです(図表1)。
さらに言えば、この「自己実現欲求」の形も変化しています。私の所属するFjordが毎年発表しているFjord Trends 2020の中でも、Liquid People(流動的な人々)というトレンドを唱えていますが、これまで所持品やステータスで自己表現してきた人々は、今や「自分の信念は何か」という視点をより重視しているのです。
基本的欲求さえ担保されなくなった今、人々の価値観が変化しているからこそ、ブランドとしても「何を信じるか」という明確な信念が問われており、それは顧客に対してだけでなく、そこで価値を提供する従業員、協力するステークホルダーに対しても同じことが求められています。
ブランドが考えるべき世界のトップリーダーからの示唆
現在、密を避ける必要性から、テレビからはオンライン会議ツールのキャプチャー的な仕立ての作品が多く見られます。世界中の都市がロックダウンされていた4月には、“Every COVID-19 Commercial is Exactly the Same”(コロナ関連のCMはどれも同じ)というタイトルの動画が話題になりました※。目の前の問題に沈黙すれば無関心だと非難され、強いメッセージを出せば炎上する。
その結果...