世界中でパンデミックが起こる中、オーストラリアの企業では、どのような動きが見られるのか。オーストラリア事情に精通する作野善教氏が日本企業と比較しながら、市場状況を踏まえて解説する。
消費者の不安を理解し課題を解決するサービスを
オーストラリアでは昨年末から今年初旬にかけて大規模な森林火災が襲った直後にパンデミックとなり、まさに「一難去ってまた一難」の状況が続いています。
自宅で過ごす時間は相対的に増えており、生活者は家族や趣味、クオリティ・オブ・ライフ(QOL)の充実をさらに求めるようになりました。家電や家具、ガーデニング関連の消費は時期によってCOVID-19前から最大で60%増加。メディア接触の点でも、テレビ、オンラインメディアの視聴者数は著しく増加傾向にあり、国内企業のコミュニケーションもオンラインを中心としたものに変わってきています。
COVID-19以降、MTV Australiaは自宅でできる瞑想(メディテーション)音楽プログラムを開始し、また大手保険会社Bupaは著名トレーナーによるオンラインフィットネスレッスンを顧客向けに開始しました。社会的な孤立感や運動不足が新たなストレスとなる中で、企業のサービスを直接アピールするのではなく「コロナ禍における消費者の不安への理解と思いやり・課題を解決するサービス」を提供することで、ブランドと消費者との結びつきを強めるコミュニケーション活動が増えてきています。
例えば、クラフトジン製造会社Archie Roseは手の消毒液が品薄になった際、いちはやく自社の設備を用いて消毒液の販売を開始しました。またイベントの舞台製作を手掛けるStagekingsという会社は、3月に2020年全ての仕事と収入を失った後、工具を使用せずに組み立てられるホームオフィス用家具のデザインと製造に事業ドメインを変更し、4月からの3カ月で約1万個の製品を販売、全従業員を再雇用しました。
自社のコアケイパビリティーをよく理解し最大限に活用し、数週間という速さでプロダクトの実装を実現するオーストラリア企業と文化のアジリティを体現した良い例だと思います。
私もArchie Roseの消毒液を即購入しましたが、他社製品に対して特段品質が優れているわけではありません。それよりも、この状況下で急激に変化した市場需要を察し、従来の事業ドメインにとらわれない柔軟な行動に共感したことが大きな購買要因でした。Stagekingsが倒産寸前から新規事業会社へとほんの数週間で再生を果たしたのも、彼らの姿勢がソーシャルメディア上で伝わり、仕事を失うなど同じような状況の人々から強く共感をされ、それらのメディア報道が相次いだからだと思います。
いまのような世界であるからこそ、たとえそれが不完全であっても、生活者の心を理解し、社会に対してスピード感をもって行動を起こすことが、より共感を生みやすい状況なのではないでしょうか。今回のパンデミックはマーケターを含め人類皆に影響をもたらしているため、マーケターとしてインサイトを、自分の経験を持って理解することができるのは、特異な状況だと考えます。
日本企業の課題はアジリティの欠如 組織全体でピボットできる文化を
しかし...