メルセデス・ベンツの2016年度の最重要販売戦略モデル「新型Eクラス」の販売が好調だ。その背景には、ブランドの世界観を具現化したWebサイトから、試乗体験に至るまでの一貫したユーザーエクスペリエンス設計があった。デジタル領域の施策を手がけた博報堂アイ・スタジオ 統合デジタルマーケティング部のメンバーに、プロジェクト成功の秘訣を聞いた。
イメージ訴求のみならず販売実績につなげる施策
博報堂アイ・スタジオは、2010年からメルセデス・ベンツのデジタルマーケティングをサポートしてきた。最新のプロジェクトは、2016年7月に発売した「新型Eクラス」のプロモーション。2016年度の最重要販売戦略モデルであり、販売目標の達成はもちろんのこと、「ブランドの新たなポジションの確立」もミッションとして掲げられた。
「従来のブランドイメージである『高級感』に加えて、自動運転やコネクテッドカーといったテクノロジー領域において最先端を走っているという先進性をもっと打ち出す必要がありました。そこで、博報堂が手がけるマス広告で掲げられた『未来型Eクラス』というコミュニケーションメッセージにデジタル領域で呼応し、ブランドの世界観を表現する特設サイトを制作。
それを起点に、ブランドへの理解を深め、実際の販売へとつなげていくコミュニケーションプランを構想しました」とプロデューサーの小林謙太郎氏は話す。ブランドの新たなイメージの訴求を通じて、既存顧客はもちろん、新たなターゲットにもアプローチすることで、販売目標を達成することが求められた。
具体的には、認知→興味・関心喚起→理解→比較検討→行動→購買というカスタマージャーニーの各プロセスに合わせたコンテンツを企画・制作した。
(1)認知:SNSキャンペーン、新車種プレス発表会のライブ配信、(2)興味・関心喚起:スペシャルサイト、(3)理解・比較検討:カタログサイト+見積シミュレーション、(4)行動:レンタルキャンペーン、といった具合だ。デジタル領域を核としながらも、オフライン領域も含めた企画の策定・実行をメルセデス・ベンツとともに進めていった。
「『未来型Eクラス』の世界観を体感できるスペシャルサイトを、最先端のWeb技術を駆使して実現。マス広告やWeb広告、またSNSキャンペーンをきっかけに興味を持ち、流入してきたターゲットに、高級感と先進性の両方を感じてもらう狙いがありました。このサイトを見て関心を深めた人は、さらに詳細なスペックを閲覧できるカタログサイトへ誘引。
そこに搭載した見積シミュレーターは、今回のキャンペーンに合わせてフルリニューアルしました。UI(ユーザーインターフェース)を最適化し、UX(ユーザーエクスペリエンス)の質を最大限に高めるため、ユーザーテストを繰り返し、最適なクリエイティブに落とし込みました」とインタラクティブディレクターの加賀谷淳氏。
このUI・UX設計は、過去6年間に収集・蓄積してきた、サイト内のユーザー行動をはじめとする膨大な量のデータに基づくものだ。「サイトのどの部分がよく見られているのか。どのボタンがよくクリックされているのか。最もコンバージョンにつながりやすい見せ方を、緻密な分析を通じて明らかにしました。単純にブランドのイメージを視覚的に表現することに留まらず、データを活用しながら、効果につながるコンテンツをロジカルに設計しています」(加賀谷氏)。
クライアント社内のハブの役割も担う
オンラインからオフラインまで、また認知から購買まで、カスタマージャーニー全体をチャネルニュートラルにカバーした今回のプロモーション。これを実現したのは、博報堂アイ・スタジオが2015年4月に立ち上げ、強化してきた、統合デジタルマーケティング部の体制だ。
クライアントのビジネス課題を踏まえて施策全体を設計するプロデューサー、すべてのコンテンツをUX/UI視点でディレクションするインタラクティブディレクター、各コンテンツのアートディレクター、システムを実装しイメージを形にするエンジニアやプログラマー、プロジェクト全体の進行管理やクライアント側との調整を担うプロジェクトマネージャー……戦略立案から実行までを担うことができる、またビジネスとクリエイティブの両面を兼ね備えたチーム編成となっている。
施策の結果を踏まえ、問題点があれば改善した上で、次の施策を実行する。PDCAを高速で回すことも、この体制ならば可能だ。
統合デジタルマーケティング部は、クライアントと非常に近い距離感で仕事を進めるのが特徴だ。「クライアントの要望を直接聞くことができると、それをアウトプットに反映しやすいのは確か。急な変更にも、よりスピーディーに対応することが可能です。営業チームの理解と、密な連携があってこその体制です」とプロダクションマネージャーの石島義士氏。
メルセデス社内で一連のキャンペーンに関わるのは、宣伝・広告部門やマーケティング部門だけではない。自動車ローンなどを扱う金融部門、アクセサリーパーツを扱うアフターサービス部門……例えば見積シミュレーションのリニューアル一つとっても、複数部門の要望をヒアリングした上で形にしていく必要があった。
「部門によって、目指すゴールやKGIは異なる。多部門と連携しながらキャンペーン全体をつくり上げていくには、クライアントと近い距離に入り要望を取りまとめるハブのような役割を担う必要があります」(石島氏)。
デジタルマーケティングには、クライアントのビジネス課題を解決することが求められていると、3人は口を揃える。「Webサイト一つとっても、クライアントを深く理解しなければ、制作することが難しくなってきていると感じます。課題を発見し、解決に向けた道筋を考えるコンサルティング能力が、クリエイティブチームにも必要になってきています」。
クライアントの課題解決をゴールに据え、そのために必要な施策は何か、データをもとに、デジタル/リアルの垣根を取り払ってマルチタッチポイントでカスタマージャーニーを描き、実行までサポートする。統合デジタルマーケティング部のこの姿勢は、博報堂アイ・スタジオの共通価値として浸透し、クライアントのビジネス課題解決に結びついている。
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