群馬県前橋市の市街地の中心部。元々百貨店だった建物が、市立美術館「アーツ前橋」として生まれ変わった。市街地の再生に寄与する役割も期待される同館は、ハード/ソフトの両面で、街とのつながりを意識したデザインがなされている。
街の風景を延長する
昨年10月に開館した美術館「アーツ前橋」は、地元の人々が長年親しんできた百貨店が撤退し、空き状態が続いていた建物をコンバージョン(建物の用途を変更し再利用すること)することで生まれた。設計を手がけた建築家の水谷俊博さんは、「市民に親しまれてきた百貨店の記憶を、施設内外の随所に残そうと考えました。例えば外形は既存施設のゆるやかな曲面を残し、それを孔の開いたデザインのアルミ材で覆うことで新しい表情を加えています。施設内にも柱や梁など、既存施設の痕跡をあえて残し、市民に受け入れられる施設を目指しました」と話す。また、街と美術館とをつなぐデザインも意識。人々が、街から施設内へと自然にアプローチし、ゆっくり散歩をしながら美術館の中へと導かれていく、「街の散歩道」のような風景をつくりだそうと考えた。「美術館というと、通路と展示室が分断されているのが一般的ですが、アーツ前橋は、展示室の壁に開口部を設けたり、既存エスカレーターを撤去して吹き抜けを設けたことで、隣の展示室や美術品、人々の動きが来館者の視界に入るんです」と水谷さんは話す。