今後、広告クリエイターは企業と共に「街づくり」にどのように関わっていけるのだろうか。都市デザインを研究し、都市とクリエイターの関わりを描いた『シビックプライド』などの著書もある東京理科大学の伊藤香織准教授に聞いた。
東京理科大学 伊藤香織(いとう・かおり)
1971年生まれ。東京理科大学 准教授。専門は、都市デザイン/空間情報科学。著書に『シビックプライド~都市のコミュニケーションをデザインする~』(監修、宣伝会議)。4月に「まちを生かす建築のいとなみ」をテーマにした『まち建築』(共著、彰国社)が発刊。
多様な創造性が集まってくる場
「アート、デザイン、フード、広告、スポーツ、社会教育やゲームまで、人々が生活を営む『街』をフィールドにした活動が、近年さまざまな分野で活発化しています」と伊藤香織准教授は話す。その背景にあるのは、ソーシャルやパブリックといった概念への関心の高まり。「『街』はその本質的でフィジカルな現れです。街の中でその歴史や未来を再発見したり、他者と体験を共有することに人々は楽しみを見だすようになっています。それゆえ『街を生きる感覚』にビジネスの機会を見だす人が増えているのではないでしょうか」。
新築や新設の機会が少なくなっていることで、一つの建設プロジェクトに複合的な意味を付与する動きもあると指摘する。「建物も交通のようなインフラも同様ですが、せっかく作るのならその機会を生かしきった方がいい。単にモノを作るだけで終わるのではなく、そこにさまざまなコト――イベントやコミュニケーションを乗せて効果を高めようとする取り組みもあります」。
その一例として挙げるのが、2006年に富山県に導入された日本初の本格的LRT(次世代型路面電車)である「ポートラム」だ。7色のカラーバリエーションを持つ美しいデザイン、市民がデザインしたラッピング車両、地元採用の女性アテンダントが観光案内や高齢者の乗降を助けるなど、単なる「乗り物」を超え、いまや街のコミュニケーションを構成する一つの要素になっている。