リアル体験空間の極意
☑企画はシェアされるイメージから考える。
☑どのように拡散されていくかを想像し逆算する。
☑「自分だったらそこに行きたくなるか?」を徹底的に考える。
企画の軸になるのはシェアされるイメージ
私は2020年に電通から独立し、今も変わらず広告代理店業をしています。1週間のうち、5日はコピーライターやCMプランナーとして広告クリエイティブをつくっていて、残りの2日は自社事業としてお店の経営の仕事や自分の企画展などの創作活動を行っています。「やだなー展」とか、「友達がやってるカフェ」とかがそれにあたります。
企画展やお店などの体験空間をつくるとき、まず何から始めていくか。私の場合は、アートディレクターとか空間のプロフェッショナルではないので、まずは「シェアされるイメージ」から考えるようにしています。シェアされるイメージというのは、タイトルであったり、映像であったりです。言葉つまりタイトルは企画の軸になるもの。タイトルでは、「一言で人に伝えたくなるようなものか」「思わず口に出したくなるか」といったことを大切にしています。タイトルが面白そうであれば、行ってみたくなりますよね。
例えば、「友達がやってるカフェ」は、社員旅行で京都を訪れた際、「この近くに友達がやってるカフェあるので行きませんか?」という社員の一言を聞いて、私もそれ言いたいなと思ったのが企画のきっかけです。このような感じで、つい口に出して、友達や誰かを誘いたくなるようなタイトルをつけるよう心がけています。私はコピーライターでもあるので、やはり“言葉”はとても大切にしています。
次に、タイトルが決まって企画の指針となるものができたら、あらゆる手段を使って設計図をつくっていきます。“大きなクリエイティブディレクション”というものですね。
例えば、バンダイナムコアミューズメントさんと「JANAI COFFEE」(東京・恵比寿)がコラボしたノンアルバー「JANAI GAMES」(今夏に大阪でオープン予定)の場合は、“物語”から組み立てていきました。昔ここにはこういう人がいて、過去にこういうお店をつくった、という感じで。この物語(=設計図)をもとに、「じゃあこういう人物がつくったお酒ってどんなものだろう?」「この人がつくった空間ってどんな空間だろう?」と、企画を膨らませていくのです。
ほかにも、「シェアされる動画」というところを、設計図の起点として考えることもあります。こういうふうにやったら動画が広まるんじゃないか、こういうふうに動画が出ていったら、商品の魅力が伝えられるのではないかというような「映像のアウトプット」から、逆算して空間を設計する形です。その動画がどういうアウトプットになるのかという最終の出口のところからスタートしたわけです。「クリエイティブのアウトプットから考えていく」イメージです。
また、自分がプライベートで足を運びたくなるか?ということも重要なポイントです。ちょっとやそっとでは、人はそこに行こうとは思いません。お客さまの目線に立って、行きたいと思うものこそが良い空間ではないでしょうか。
人々の目はコロナ以前より鋭くなっている
さて、大まかな設計図が完成したら、次は開催までの準備です。コロナ前後で体験空間の企画や設計において変化したことは、私の感覚の中では特にありません。
ただ、コロナを経て、人々が展示やイベントなど、出かける場所の数を吟味するようになったのは確かだと思います。“そういう習慣が身についた”と言ってもいいかもしれません。コロナ禍では、飲食店が早い時間に閉店したり、移動制限があったりして、あまり出歩くことができませんでした。限られた自分の時間の中で、どこで何を体験するか、選択肢を絞る必要がありました。タイムパフォーマンス、いわゆる「タイパ」みたいなこともあわせて、人の目がとても鋭くなっていったのではないかと感じています。
そこで、事前情報でどれだけ楽しそうだと思ってもらえるかが集客のカギになってきます。そのためには、ある程度のネタバレを許容する形で設計していくことが必要であると思います。
体験期間の開始前から、その場所やメニュー、空間の内装などをできる限り分かりやすく知らせておく。「ここに行ったら、こういう体験ができるんだ」というのが、見る人にクリアに分かってもらえるようにします。映画とかドラマの予告のように、結末を教えないということではありません。
体験デザインの場合は、結末もすべて公開したほうが良いと思っています。「ここに行ったらこういう料理が...