インサイトを形にするための極意
☑インサイトを意識するあまり、ブランドの「言いたいこと」から離れていないかを考える。
☑「普遍」と「時流」、どの種類のインサイトかで、表現を考える上での戦略は変わる。
☑「ブランドとの距離」、「概念の浸透率」の2軸で、企画を強くする。
“言って意味のあること”と“言われて心が動くこと”を探す
いきなり話の腰を折るようですが「インサイトを捉える」ということと「言葉にする」ということを、僕自身はあまり分けて考えたことがないのかもしれません。それは、おそらくインサイトを考えるという行為が“コピーを書く”という行為に内包されているからだと思います(コピーにも様々な役割があるので、必ずしもすべてのコピーがそうではないです)。なので、今回はそんなコピーライターの立場から、インサイトというものについて考えてみたいと思います。
今回のテーマである「インサイトを言葉にする」ということは、少し乱暴に言ってしまえば、【図1】の重なり部分のように、話し手であるブランド(商品)が「言いたいこと」と受け手である生活者の「言ってほしいこと」の重なり部分を探すことだと思っています。これはコピーに限らず、コミュニケーションの基本形でもあり、話し手が「言いたいこと」を伝えるだけでは受け手に見てもらえませんし、受け手の「言ってほしいこと」を言うだけでは広告としては機能しないものになってしまいます。
つまり、ブランドにとって“言って意味のあること”で、生活者が“言われて心が動くこと”を探す、というのが言葉を考えていく上での大原則なのです。
ここで意外と落とし穴なのが、インサイトを意識するあまり、ブランドの「言いたいこと」から離れて、生活者の「言ってほしいこと」だけになってしまうパターンです。その場合、図上では、生活者に寄り添っているように見えるのに、意外にも響いていないことが多いように思います。受け手も無意識に、なぜそのブランドがそんなことを言っているのか、しっかりと“筋”が通っていないと都合のよいことを言っているだけじゃないか、と受け入れてもらえないのだと思います。
「普遍のインサイト」と「時流のインサイト」
次に、そもそもインサイトにはどのようなものがあるのか考えてみましょう。正しい定義などは専門書に譲るとして、世の中で話題になったものを分析してみると、インサイトは大きく2つに分けられると思います。
ひとつ目は「普遍のインサイト」で、時代が変わってもみんなが共感できるもの。例えば、“上手く伝えられないお母さんへの感謝の気持ち”など、真理であるが故に、表現としての新しさや強さが求められるタイプのものです。これらは、すでにあらゆる方法でアプローチされているため、受け手の中でも“馴れ”が生まれており、ハードルが高くなってしまっています。そのため、本来ならいいアプローチをしているはずでも「あぁ、そのパターンか」と、ちょっとやそっとでは心が動かなくなってしまっています。
2つ目は「時流のインサイト」で、今このタイミングだからこそ共感できるもの。“リモートからリアルに戻りつつある今だからこそ、〇〇しよう”。など、これまで言語化されていなかった暗黙の想いだからこそ、上手に捉えることができた時、大きな反響につながりやすいのが特徴です。
一方で、コミュニケーションのタイミングが難しく、早すぎると理解のできないものになってしまったり、逆に遅れてしまうと「いまさら?」といった印象を与えたり、他の企業に先を越されてしまったりする難しさがあります。つまり、いま捉えようとしているインサイトがどんな種類のものなのかによって、表現を考える上での戦略を変えていく必要があるのです。
いわゆるWhatとHowの話に当てはめて整理すると、前述した内容と重複しますが、普遍的なテーマを扱う場合にはWhat to sayに新しさを出すことが難しいので、Howの部分に重点を置く必要があると思っています。
誤解がないように慌てて補足しておくと、Whatを疎かにするということではなく、伝えるべきことがより明確な分、どう伝えるかでより差がつくということです。逆に、時流のテーマを扱う場合にはHowが尖っているに越したことはないと思いますが、Whatをうまく発見することさえできれば、それだけで十分な強さがあるので、意外と表現はシンプルなものでも響くと思います。
せっかくよいWhatを発見しているのに、Howを凝りすぎたが故に理解しにくくなってしまっては本末転倒です。まだあまり言語化されていない分、分かりやすさや伝わりやすさを大切にする必要があります。
企画や言葉を強くする「距離」と「浸透率」
では、実際に、企画や言葉を強くしていくためには、どんなことに気をつけたらいいでしょうか。ここでは「距離」と「浸透率」をキーワードにお話できればと思います。
【図2】のように、縦軸にブランドとの距離、横軸に概念の浸透率をとってみましょう。難しい言い方になってしまいましたが、要は関連性が高いか低いか、みんなが知っているか知らないかということが判断基準になるということです。今、伝えようとしていることが...