クリエイティブ・ディレクションの極意
☑協業する上では「知らない」ことが価値になる。
☑制作の現場から一歩距離を置いて、客観的にアウトプットを見ることがCDの役割。
☑判断基準をあらかじめ突き詰めることで、仮説検証の精度を上げる。
デザイナーと非デザイナー 協業が「正しい判断」の鍵
これまで私は、ブランディングを中心に広告や映像、ウェブサイトやアプリケーションのUIなど、様々なクリエイティブ・ディレクションに携わってきました。どのプロジェクトでも、企業の担当者と一緒にクリエイティブの判断を行います。ディレクションとは言葉の通り「方向」、クリエイティブ・ディレクションとはその目指すべき方向を「判断」することになります。
そこで、ここでは私なりの経験をもとに、担当者の方々がどのようにその「判断」を行っていけば良いか。制作の3つのプロセスに沿って、ポイントをお伝えできればと思います。
さて、制作に入るその前に、まずはマインドセットについて考えていきます。クリエイティブ・ディレクションとはデザインなどの視覚的な判断を行うことだと捉えられがちですが、実はそうしたデザイナー視点ではなく非デザイナー視点での判断の方が重要になるシーンが少なくありません。
制作現場には様々な専門家が集まります。企業の担当者であれば、自社の事業のことを一番熟知されていています。私は長年グラフィックデザインに携わってきましたので、視覚的な技法や効果について把握しています。
そうしたお互いの知見・経験を持ち寄りつつ、実はお互いの領域について「知らない」ことが価値になることがあります。視覚的な課題でも非デザイナーだからこそ気づくことがあり、業界の専門的な問題についても業界を知らないからこそ気づくことがあります。デザイナー/非デザイナーが、お互いの専門領域の壁を越え、また思い込みやバイアスを振り払い協業できると、より良いチームワークが生まれ、正しい判断を行うことができます。
要件定義から定着まで3ステップにおける判断基準
それでは具体的にクリエイティブ・ディレクションの仕事を見ていきましょう【図1】。
まず初期段階で大切になるのが「何が課題で、何を解決しないといけないのか」プロジェクトのスタート地点とゴール地点を明確にすることです。ここでは「要件定義」と呼びます。
要件が定まると、次に課題解決の方向性を探る「仮説構築」の段階に入っていきます。課題解決の糸口を見つけるため、あらゆる可能性を探っていきます。
そして目指すべき方向を定め広告や映像、ウェブサイトなどのアウトプットに「定着」していきます。
それぞれの段階において、どのように判断を行っていけば良いか?判断基準はどのように設定すれば良いか?この3つのステップに沿ってポイントを見ていきましょう。
1.「自社の強み」を起点に、顧客像を描く
商品キャンペーン、企業広報、採用プロモーション、いずれにおいてもSTP分析/戦略(S:セグメント/T:ターゲティング/P:ポジショニング)を明確にすることから始めていきます。
なかでも特に重要なのがポジショニング(競争優位性)を明確にすることです。競合に対して「何を武器に戦うのか(=強み)」、顧客視点で生活者は「何を買うのか?(=便益)」、その独自性や差別性が強ければ強いほど、後の判断が行いやすくなります。
顧客がその商品・サービスを「選ぶ理由」が明確になれば、それを必要とする顧客像が見えてきます。その便益を一番享受できる人、ペイン(痛み)の大きな人にフォーカスを当てると、狙うべき市場を絞り込んでいくことができます。
ここでのクリエイティブ・ディレクションのポイントは、どれだけターゲットを絞り込めたか?ということになります。ターゲットが明確で、プロジェクトメンバー全員がターゲット像を具体的に思い描けている状態が理想的です。ターゲットの...