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宣伝担当者が知っておきたいクリエイティブの基本

インサイトの発見に悩んだらインサイトという言葉を忘れてみる

河西智彦氏(博報堂)

    インサイト把握の極意

    ☑「インサイト」ではなく「共通の心理や行動」と置き直して発見すると見つかりやすい。

    ☑〇〇インサイト(〇〇に共通する心理や行動)の〇〇を大きくすることで売上効果は増していく。

    ☑何か新しい事象が起きている場合、それは新しい共通心理から生まれていることを意識する。

発見するインサイトによって「広告の売上効果」が変わる

博報堂のクリエイティブディレクターをしている河西と言います。得意とするのは『予算に関わらず担当ブランドや担当企業の売上を増やす広告キャンペーンをする』こと。数百万円でも、数十億円でも売上を増やします。僕一人の力ではありませんが、多くのブランドのV字回復にも貢献しています。売上増のための事業開発、売上増やV字回復のコンサルティング、企業宣伝部向けの講演なども行っています。

よく「こんなに売上にこだわるクリエイターは初めてです」と言っていただけるので、一見似ているようでも、僕の広告づくりは通常の広告づくりとは異なるようです。今回の文字数では一部しか書けませんが、売上を増やす方法論は確立できています。

そんな売上増に徹底的にこだわる僕にとってインサイトはかなり重要です。生活者のインサイトや社会のインサイトだけでなく、メディアのインサイトや流通のインサイトなど、どんなインサイトを発見できるか、で「広告の売上効果」が大きく変わるからです。

と、いいつつ⋯気をつけてほしいのが「インサイト」という単語の曖昧さです。英語や和製英語は意味が広くなりがちです。誤解を恐れずに言えばDX・パーパスと同様、定義の曖昧さゆえに、間違っているものやズレているものも「インサイト」と呼べてしまうのです。

そのため、僕は企画するときに「インサイト」という単語は使いません。インサイトではなく、「ある程度の人に共通する心理あるいは行動(以下共通心理と書きます)」と置き換えて考えます(この単語もわかりにくかったらすみません⋯)。

多様性の社会になっていますが、人間には元来、共通する心理や行動が存在します。飲食店で行列を見ると並びたくなったり、暗闇で美しい光を見ると感動する、などいろいろあります。

もちろん多様性の時代なのでそうでない人もいますし、違う感情を抱く人を否定するつもりはありません。ただ、売上を増やすには、より多くの人をつかまえることが重要になります。その視点から見ると、より多くの人に共通する心理や行動を発見することが「効果のあるインサイトを見つける」とイコールになります。

この共通の心理や行動は、いろいろなカテゴリーで存在します。Twitterをする人の多くに見られる共通心理もあります。Instagramをする人の多くに見られる共通心理もあります。経営者の共通心理もありますし、コンビニで買い物する時の(ある程度)共通の行動もあります。屋外広告に接触する生活者の共通心理だってあります。

もしインサイトの発見に悩んでいる場合は、インサイトという単語を忘れ、商品のターゲットに共通する心理や行動を発見する、と置き換えて考えてみてください。『ある程度の〇〇に共通する心理や行動』を発見することができれば、その心理を利用することで効果は倍増します。

たとえば。手前味噌ですが、以前森永製菓さんとおこなったのが『ベイクを買わない理由100円買取キャンペーン』。焼きチョコ『ベイク』を買わない理由をTwitterに投稿してくれたらすべて100円で買い上げる(電子マネー100円を送付する)Twitterキャンペーンです。予算は限られていたものの、多くのPRになり話題化。売上は過去最高レベルにV字回復。集まった買わない理由を反映してリニューアルしたベイクは現在も好調です。

このキャンペーンのベースとなったのは『Twitterのインサイト』、つまりTwitterをする人たち(の何割か)に共通する心理でした。それは⋯『匿名のSNSではネガティブなお題のほうが書き込んでくれやすい』です。

ベイクを買う理由を教えてください、よりもベイクを買わない理由を教えてください、のほうが書き込みやすくありませんか?この共通心理を突くことで参加率や注目率が高まります。結果、ベイクを思い出すリマインド効果もあり売上が増加しました。

さらに言えば、『ある程度の〇〇に共通する心理や行動』の〇〇の規模が大きいほど、売上効果は大きくなります。30代男性に共通する心理や行動より、男性の多くに共通する心理や行動を発見したほうが効果は出ます。この〇〇の中でも、発見できたら効果が最大級になるのが⋯ソーシャルインサイト、「社会に共通する心理や行動」です。

これも手前味噌で申し訳ありませんが、とある外食チェーンの新聞広告で「私たちはサービス業ですが、売上を捨ててでも創業以来初めてお正月を休みます」と宣言する企画を実施したことがありました。広告は狙い通り拡散され、2000万人に情報が届いたのです。称賛や応援の声で溢れ、お正月休み明けの売上は大幅に増加しました。

この広告のベースにしたのが、「お正月ぐらい休みたい・お正月ぐらい休もうよ」というソーシャルインサイト(社会に共通する心理)です。

当時、この心理は社会の中でたしかに存在する、でも「思っていたけど言えない潜在的な心理」でした...

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