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宣伝担当者が知っておきたいクリエイティブの基本

機能するコンセプトとは具体を照らし出す「サーチライト」である

山田壮夫氏(電通)

    コンセプト開発の極意

    ☑そもそも、コンセプトとは何かを知る。

    ☑コンセプトの品質管理をできるようになる。

    ☑コンセプトづくりの基本的な構造を理解する。

方針? おへそ? コンセプトとは何かを定義する

私たちは毎日、至る所で「コンセプト」を目にしています。それはたいてい企画書や計画書の、何となく大切そうなところに記されています。そこで、改めてお伺いします。「コンセプトって、何ですか?」

ある方は「基本的な方針のこと」と仰いました。「変えてはいけない、おへそのようなもの」と言う方もいました。しかし残念ながら、実はどちらも十分な定義とは言えません。今日はこんな、意外に知らないコンセプト開発の基本の「き」から始めたいと思います。

アメリカの社会学者タルコット・パーソンズによると、コンセプトとは「サーチライト」だそうです。私たちは経験社会の暗闇の中で、『机』とか『椅子』とか、概念のサーチライトが照らし出したものを、それと認識します。

面白いのはその「サーチライト」が差し変わることがあるのです。たとえば電話はかつて「固定電話」という古いサーチライトで認識されていました。一家に一台、家族共有が常識。しかしそれが「携帯電話」という新しいサーチライトに差し変わり、常識がひっくり返りました。「イノベーション」とはこの新旧ふたつのサーチライトが差し変わることです。言い換えると、「イノベーション」とは「コンセプト創造」なのです。

さて、それではこの定義に従って、試しにスターバックスのコンセプト「サードプレイス」を見てみましょう。その際、絶対不可欠な手順が「古いコンセプト」が何かを明らかにすること。サーチライトの定義からすれば当然ですが、多くの現場では無視されているプロセスです。

スターバックスが覆した「古いサーチライト」は「コーヒースタンド」です。安価なコーヒーを手軽に、回転率勝負なので、文字通りスタンドスタイルで提供して、チェーン展開する…そんな現実を照らし出すサーチライトでした。それに対し「サードプレイス」は、まるで「第三の居場所」のように居心地よく、その代わり客単価は高めで、サービスレベル維持のためにはチェーン展開できないという「常識外れな具体策」を浮かび上がらせるものでした。この差し変えは、なかなか思いつきそうで思いつかない「その手があったか!」なアプローチでした。

ここで注目したいのは「サードプレイス」が提唱された時点で、そんな業態が世の中に存在しなかったことです。「サードプレイス」というある種の「たとえ話(メタファー)」が暗闇にやるべきことを照らし出しました。この短い言葉が、仲間内に直観的に方向性を共有したのです。それは「どのように新しいか」をも、イメージさせてくれました。コンセプトの定義が「基本的な方針」や「おへそ」では不十分で、まさに「具体を照らし出す」サーチライトであるべき理由をご理解いただけたでしょうか?

コピーとは別物!コンセプトの品質管理を考える

コンセプトは企画書を飾る美辞麗句ではありません。もっと実践的な、機能的な言葉です。この観点に立ち、次にいくつかの「コンセプト」を見てみましょう。

「広島平和記念公園のコンセプト、『平和をつくり出すための工場』」

建築家・丹下健三氏は、広島の平和記念公園及び資料館の設計時にこのような思いを込めたといいます。さて、この「コンセプト」は傑作でしょうか?それとも「コンセプト」の要件を満たさないシロモノでしょうか?「良いと思うんです、なぜなら…」と最初からコンセプト自体を評価し始める人がいますが、それはダメ。絶対不可欠な手順は、まずは「古いコンセプト」が何であるかを明らかにすることでした。

この場合、古いサーチライトと言われても、ちょっとピンと来ないかも知れません。でもそんなに難しいことではなく「被災地に建てられるものって、何?」を考えればOKです。それは例えば、「慰霊碑」。私たちは自分たちを縛っている「常識」は、それを当然のものとして考える傾向があるので、意識して言語化する習慣を身につけてください。

話しを元に戻しましょう。「慰霊碑」を「平和をつくり出すための工場」に差し変えた取り組みが、果たして素晴らしかったのか、を考えるためには、その新しいサーチライトが、どのように画期的な具体策を照らし出したかを見ると良いでしょう。

実際に現地にいらっしゃった方はわかると思いますが、たいてい最初に訪れるのは資料館です。そこでは広島の暮らしを破壊した壮絶な記録の数々を目にします。その後、外に出て足を進めると、今日の平和な景色の中に原爆ドームを目撃します。

すると来場者の中には自然と「平和って大切だ」という思いが湧いて来るのです。つまりここで明らかになった広島記念公園の役割は、過去の記憶を留める施設ではなく、来場者一人ひとりを部品に見立て、「平和を愛する心」を生産し続ける「工場」でした。その手口はまさに「その手があったか!」です。従って「平和をつくり出すための工場」は、傑作コンセプトであると言えるでしょう。

ここで注意したいのはコンセプトとコピーは(時として重複することはあっても基本的な機能は)別物だということです。前者はプロが仲間内で方向性を共有することば。後者は広く一般に伝えるためのことば。「平和をつくり出すための工場」の「工場」もコンセプトとしては抜群なことば選びですが、コピーとしては、来場者を「部品」と見ている点がマイナスでしょう。

「こんど首都圏に展開する新業態のコンセプトは『ラーメン3.0』です」

これも「古いコンセプト」との...

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