税制改革や、何らかの社会事象が起こってから、それが消費者心理を動かし、商品購入・サービス利用に至るまで…。そのメカニズムを経済理論で解析することで、企業の効果的なアプローチの方法を探る。
消費税が消費行動に及ぼす影響:経済理論の確認
消費税は、消費財の価格への転嫁により消費者の行動に影響を及ぼす。このような価格変化の影響は、「所得効果」と「代替効果」に分けることができる。所得効果とは、財布の中身が不変でも価格の上昇(低下)により購入できる消費財が減り(増え)、実質的に貧しく(豊かに)なることを意味する。代替効果は、価格が変化しない商品に比べて価格が上昇(低下)した商品の需要が減少(増加)することである。
所得効果を考えるときのポイントは、消費者の時間的視野の長さにある。長期的な視野を有する消費者は税率アップの実施前でも、アップが確実になれば将来の可処分所得(税負担などを除いた消費にまわせる所得)の減少を見越して消費行動を変化させる。このような消費者は、短期的な所得の変化にあまり反応しない。ボーナスを計画的に使う堅実な消費者を想像すれば良い。それに対して、短期的(近視眼的)な視野のもとで消費を行う消費者は、短期的な所得の変動に敏感に反応する。例えばボーナスが出たら、全部旅行に使ってしまうようなタイプである。長期的視野の消費者は消費増税実施前から消費を抑制するが、近視眼的消費者は実際に消費税率が上昇した時点で消費を抑制する。
代替効果を考えるときのポイントは、貯蓄と「価格弾力性」(後述)である。消費税は消費財全般に課されるので、特殊な例外を除くと決定的に有利な消費財はない。しかし、消費をしなければ消費税はかからないので、所得を貯蓄にまわすことによって消費税を回避することができる。と言っても、永遠に貯蓄しておくことはできないので、消費税の回避は一時的なものにすぎない。ただし、消費税率アップのタイミングにおいては消費税を回避する方法が一つだけ存在する。税率アップ前に消費し、アップ後に消費を抑制すれば良い。これが、いわゆる「駆け込み消費」である。この現象は、価格面で不利な消費税アップ後から価格面で有利なアップ前に消費をシフトする代替効果として理解することができる。ただし、この効果はすべての財に一様ではない。価格の差異に対して反応しやすい消費財と、そうでない消費財が存在するからである。価格に対する消費の反応の大きさを価格弾力性と呼ぶと、価格弾力性の大きな消費財で代替効果が大きくなり、駆け込み消費が観察されやすくなる。一般に、必需品の消費を大きく抑制することは困難であるが、贅沢品や耐久消費財などの消費は抑制が容易なので、後者で価格弾力性が大きくなると考えられる。
2014年4月の消費税率アップの影響:マクロの視点とミクロの視点
GDP関連統計や家計調査によると …