さまざまな中国発の新サービスが台頭するなど、「中国のネット業界の発展速度が非常に速い」と言われている。実際のところ、現地ではどのような温度感なのか。中国在住でIT事情に精通している山谷剛史氏に聞いた。

連日多くの人でにぎわうという火鍋屋「海底撈」は、味よりもサービス力の認知が高い。
「海底撈(ハイディラオ)」という中国全土に展開する火鍋屋がある。連日、店に入りきれないほど、たくさんの人が集まる。筆者が拠点とする雲南省・昆明市の人気モールでは、最も入店を待たされる店だ。
入店前の人々が集まる店外には、ほかの店舗ではあまり見られない、変わった光景が広がる。来店者用にテーブルと椅子をレストランのように並べており、そこでは、お菓子をつまむ子ども、オセロなどのボードゲームを遊ぶ家族連れ、大型スクリーンでドラマを見る人々、ネイルサービスを受ける女性など、みな何かをして待っている。これぞ「海底撈」の特徴である、入店を待つ人向けの、至れり尽くせりのサービスだ。
「海底撈」と言えば、中国では、味よりも圧倒的なサービス力のほうで認知度が高い。圧倒的なサービス力と評されるくらいだから、ほかのレストランや食堂は、サービス面で全く相手にならない。
「海底撈」スタッフは、同社の教育プログラムにより徹底的に教育され、まるで日本か、ないしはそれ以上と思える笑顔で接客する。一方、多くのレストランのスタッフは教育されておらず、スタッフ同士で会話したり、ただ棒立ちしていたり、という姿が日常的に見られる。だからこそ「海底撈」が一目置かれ、リピーターを増やしているのだ。
中国では以前から、「レストラン内外に人が多くいれば、それは安全かつ人気である証」と言われていて、だからこそ「行ってみたい」という気持ちを抱かせ、人を呼びこむ。
「海底撈」は多くの店舗を、人気のモール内に構えている。以前は歩行者天国や、そこにある百貨店が導線の要となっていたが、現在は最新のモールが注目を集めていて、人々が待ち合わせする場となっている。
各都市で次々と新たなモールが誕生しているが、すべてが好調というわけではない。立地が悪く、全く振るわないモールもある。そうしたモールは、テナントが入らず、庶民的な食堂しかないところも少なくない。勝ち組と負け組の差は日本以上に著しい。
勝ち組のモールは、仏小売の「カルフール」や、米小売「ウォルマート」などのスーパーほか、「無印良品」や「H&M」、「ZARA」、そして雑貨や家具店、書店、アパレルショップが入っているのが定番だ。
加えてファミリー向け、若者向けの体感ゲームやAR(拡張現実)ゲームなど、対象別のゲームセンターや、ビューティーサロンやジム、英語教室や絵画教室、ブロックやロボットなどを使ったプログラミング教室などの子ども向け教育施設、それに和洋中さまざまな食事が楽しめるレストランフロアがある。
中国のどこかの都市を訪れる機会があれば、まずはその都市で一番のモールをじっくりと歩き回ることをお勧めする。すべてが詰まっているからだ。
どの店のサービスも「海底撈」のそれにはかなわないと書いたが、サービスの最低ラインの底上げは行われている。
そのひとつが、モール内のレストランで、スマートフォン用のモバイルバッテリーをレンタルするサービス(シェアバッテリー)だ。導入店はいまや珍しくない。店内で無線LANが利用できるのと同様に、「店内でスマートフォンを充電できる」とアピールすることで、それを必要としている人を呼び込むわけだ。モール自体でシェアバッテリーサービスを用意するところも増えてきた。
調理場を監視カメラやガラス越しで客に見せる店もある。安全面の訴求が、特にモール内レストランでは必須となってきた感がある。
ところで、レストランフロアには和洋中が揃っていると書いたが、特に日本料理屋は、中国に在住する日本人が減少する中でも、かつて見ないほど急増している。もはや日本人だけを相手にするというよりは、さまざまな顧客が日本料理を求めて入店している。
モールでは、中国で「ZAKKA」とも称される雑貨もまた人気だ。無印良品が雑貨ブームの火付け役だが、無印良品らしさを感じさせる雑貨店は数限りなくある。扱うのは木材などを活用したナチュラル志向の商品ほか、日本のお菓子や日用品、書籍など。書籍を販売する店では、東野圭吾や村上春樹の翻訳本がいい位置で売られている。
多くの中国人が海外旅行に行きたがっているが、行きたい海外旅行先で1位ないしは上位に来るのが日本だ。ことし1月、「旅かえる」という日本発のゲームが中国で大ヒットした。ゲーム内での日本料理や雑貨、日本の写真が受けたからではないか、と分析されている。ともかく今の日本の民間についてのイメージはすこぶる良い。かつての反日デモのイメージから、中国イコール反日というイメージを持っていたら、それは10年程度も昔の印象だ …