消費者と店舗・Eコマースの導線上には、どのような接点(タッチポイント)を設けるべきか。それに対して、博報堂ケトル ディレクターの畑中翔太氏は「情報設計」の重要性を強調する。クリエイターの視点から、具体的な事例をもとにその設計法について聞いた。

2016年からイオングループが日本に導入した米国発のセール「ブラックフライデー」。「企業ごと」から「市場ごと」したことで、消費が鈍化しやすい11月のセールとして定着している。
店舗購買からEコマース(EC)購買への行動の変化、そしてEC市場におけるサービスの乱立、この数年で「販促」をめぐる変化はよりスピードが増しています。
CM、交通・屋外広告、デジタル広告、キャンペーン、イベントなど、「消費者の動線上に新たなタッチポイントを設計し、どのように自身の店舗やECへと誘導するか?」という問いは、読者の方々の永遠の課題でもあるかと思います。
そしてリアルにデジタルにライバルが乱立し、さらにスマートデバイスの普及によって企業コミュニケーションの方法もより多様化する中で、この問いに答えるのはこれまで以上にむずかしいものとなっています。
詳細な顧客リサーチ、綿密なタッチポイント設計、効果的な広告設計など、販売促進におけるプランニングが抱えるタスクは複雑化しています。さまざまなクライアントのトータルコミュニケーションを担当する私自身、これまで以上に重要になると考えるのが、「販促活動における、消費者を動かす情報設計」です。
情報設計と聞くと、「商品やブランドのことを話題化すればいいのか?」というように聞こえるかもしれませんが、これは消費者たちがお店へとやってくる"大きな流れ"や"空気"をつくる、より大きな情報戦略だととらえていただければと思います(もちろん、商品やサービスの市場規模や特性によってはそぐわない可能性もあります)。
今回は私の担当事例とともに上記のステップを解説しながら、販促活動における、もう一つの視点をお話したいと思います。
「企業ごと」から「市場ごと」に 日本でも「ブラックフライデー」
一つめは、2016年にイオングループが日本に初本格導入した、米国発のセール「ブラックフライデー」の事例です。
イオンをはじめとした多くの流通小売業界は、「11月の需要創造」が毎年の至上命題でした。年末を控えて消費が鈍化するからです。そして事実、イオンにおいても「消費がにぶる11月に、どうやってお客さんを店舗へと足を運ばせるか?」が、年末商戦における大きな課題でした。
イオンはこれまでも11月に何がしかの販促施策を打っていましたが、その効果はあまり表れておらず、その打開策としての販促施策として提示したのが、欧米を中心に社会現象化している年末の一大セール「ブラックフライデー」を本格導入することでした。
新たな米国発のセールを導入すること自体は簡単です。実は日本でも、このブラックフライデーをすでに実施している小売店はいくつかありました。しかし世の中には全く認知されていない状態。もしイオンがその名前だけを借りてきても、よくあるセールの名称違いだけで終わってしまう恐れがありました。
最大の課題は「一企業発のセールを、どう社会ごと化するか?」ということ。そこで目指したのが、「日本に新しいお買いもの祭りがやってくる!」という、「世の中の大きな空気づくり」です。そのために、まずイオンのブラックフライデーの初導入を、セール開始の一カ月以上前にPR発表会を開いて宣言しました。
これは自社の打ち手を直前まで競合には明かさない流通小売業界としては異例のことでした。なぜそんな大事なセール情報を事前に公開したのか?その真意は「競合をも仲間につけること」にありました。
業界最大手のイオンがブラックフライデーの参入を事前に宣言することで、このニュースを見た流通小売業者が追随することを狙ったのです。
その結果、その前の年にはほとんど見られなかったブラックフライデーセールが、2016年度(4月~17年3月)には50以上のブランドが全国数万のお店で実施する、一大お買いもの祭りに発展することとなりました。まさに前述のように、年末商戦のキーとなる11月のセールを、「自分ごと(企業ごと)」から「みんなごと(市場ごと)」に広げたのです。
このように多くの流通小売店舗が同セールを導入したことで、「ブラックフライデー」がイオンだけの"自分ごと"ではなく、流通小売業界全体の"みんなごと"へと拡大し、結果としてテレビを含めたメディアでの報道が過熱しました。最終的には15億円を超えるメディア露出へとつながり、イオン発のブラックフライデーセールが初年度から、まさに"社会ごと化"したのです。
メディアでブラックフライデー到来の話題が盛り上がるタイミングで、事前に設計していた集中的な広告出稿、キャンペーンなどを展開し、先導者としての優位性を訴求しながら、最終的にイオン店舗へとお客さんが足を運ぶようにしました。結果、イオングループ全体で期間中に前年比115%に上る売り上げを達成しました …