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部下と上司の「販促入門」

急務のオムニチャネル化と海外動向から見える、小売の活路

イー・ロジット 角井亮一氏

ネット通販の活況に伴い、宅配業者の疲弊が各メディアで取り上げられ、かつてないほどの注目を集める物流。いま現場ではどのようなことが起こっており、押さえておくべきポイントとはどんなことか。戦略物流専門家であるイー・ロジットの角井亮一社長に、2018年の展望を含めて語ってもらった。

図案:角井亮一

ネット通販市場の拡大

私たち消費者はスマートフォンの操作一つで欲しいものが自宅に配送される「手軽さ」を手放せなくなっています。小売市場全体ではほとんど成長が止まっている中、Eコマース(EC)は成長し続けていることから、既存の小売店からECに顧客が流れていると推測されます。

ネット通販の拡大に合わせて、宅配便の配達個数は年々増え続けてきました。2016年は約40億2000万個となり、2015年から2016年のたった1年で取り扱い個数が、3億個近くも増えています。今後も拡大することを考えると、宅配便の取り扱い個数はまだまだ右肩上がりで増えていきます。近い将来に、現在の1.5倍となる年間60憶個という数字にも現実味があります。

──ライフスタイルの変化による「不在」の増加

インターネットが存在しない1976年、ヤマト運輸によって始まった宅配便は、親しい個人の間での利用がメインでした。全体の取り扱い個数も年間3億個未満。急激に取り扱い個数が増え続けるなかで、もともと個人利用を前提に設計されたビジネスモデルを大きく変更することなく、通販会社から個人への宅配を担っているのです。

そんな中、現場ドライバーが疲弊する原因として、配達個数増加以外に「再配達問題」が挙げられます。再配達の数が増えることで、配達個数以上に、配達回数が増えていくので、宅配ドライバーの負荷を高める大きな要因になります。

国土交通省によると、2015年の全宅配便の配達個数のうち、再配達分が約20%と言われています。再配達で荷物を受け取る確率は、1回目が約16%、2回目が約3%、3回目が約1%で、これらを合わせた数字が約20%というわけです。「不在通知表」を置いていく「受取人不在の宅配」という現象は、「在宅率の低い共働き世帯」「単身世帯の増加」といったライフスタイルの変化から生じています。

──「再配達問題」の解決方法

このように再配達が発生し、現場ドライバーの負担が発生しているにもかかわらず、再配達にかかる費用について、荷主や受取人に追加費用を求められないのが現状で、すべて運送業者が負担しています。宅配事業者が、無料のサービスとして始めたため、いまさら請求できない状態なのです。

現状のまま宅配60億個の時代に突入すれば、再配達の負荷がさらに拡大することから、いま再配達を減らす取り組みが急務となっています。

国土交通省は2015年9月、「宅配の再配達の削減に向けた受取方法の多様化の促進等に関する検討会 報告書」をまとめました。その中で宅配を1回めの配送で受け取れなかった理由として最も多かったのが、「配達が来ることを知らなかった」という回答でした。

50歳代以上の高齢層ほどその割合が高くなるようです。スマートフォンを持たずWeb環境がないため、通販会社からの発送のお知らせや、宅配荷物の追跡サービスを利用できない状況が発生していると推察できます。

私が代表幹事を務める「宅配研究会」のプロジェクトとして、現在15万人に利用されている再配達削減スマホアプリ「ウケトル」を公開しています。ヤマト運輸の会員制サービス「クロネコメンバーズ」と同様、再配達依頼を簡単に行えますが、佐川急便、日本郵便が扱う荷物の配送状況も追跡でき、さらに不在票を見なくても、会社や電車内でスマホから再配達依頼がワンクリックでできるのが特徴です。

ほかに再配達問題の解決策として受け取り場所の多様化が始まっています。たとえば「自宅宅配BOX」「公共宅配ロッカー」「店舗受け取り」など、宅配会社、流通会社を巻き込み、今後も再配達を減らすための業界の取り組みはさまざまに行われていくでしょう。

──ネット通販業界の対応

昨年10月、ファッションショッピングサイト「ZOZOTOWN(ゾゾタウン)」が、利用者が無料から3000円の間で、自由に送料を設定できる「送料自由」を試験導入しました。利用者が設定した送料の平均は96円(税込)、送料0円(無料)に設定した注文の割合が43%という途中結果を受け、運営会社のスタートトゥデイは11月から、送料は購入金額にかかわらず「一律200円」としています。

スタートトゥデイの前澤友作社長は「一部のユーザーに送料無料が当たり前という誤った認識を与えた反省もある。無料で届くわけがないと社会的に認知していただく」と説明しています。

──「人手不足」の「物流危機」

宅配業界だけでなく、企業間物流を含めた「物流危機」として、2013年に国土交通省が「物流2015年危機」を発表していました。2015年は団塊の世代が定年退職を迎えた年で、2020年には10万人近いドライバーが不足すると予測されています。

「仕事を依頼しても断られた」「3月中に出荷できず、4月にずれ込んだ」といった「ドライバーおよびトラックの不足」が危機的な事態につながったことで、何とか「足」を確保しようとする荷主が、運賃の値上げに応じています。

トラックドライバーの高齢化が進む運送業界では、60歳以上のドライバーが15%を占めています。「低賃金、早朝深夜シフトといった不規則な労働時間、長時間労働」などが、トラックドライバーが人手不足となる要因として挙げられています。ドライバー不足の解消のため、「運賃の適正化や女性・外国人ドライバーの活用、ドライバーの待機時間の削減、運送の効率化」などの模索が始まっています。

海外の最先端の商流の変化を眺める

──「アマゾンフレッシュ・ピックアップ」のオムニチャネル

米アマゾンが取り組む「AmazonFresh Pickup(アマゾンフレッシュ・ピックアップ)」は同社の重要な物流戦略の一つです。これはネットで注文した商品を購入者が受け取りに行く「受け渡し専用拠点」で、昨年4月に米シカゴにオープンしました。

ある調査(Adobe Global Economy Project)によると、グローサリー(食品スーパーに並ぶ商品)を、店頭ピックアップを希望する消費者は、2015年7月からその一年後にかけて、18%から45%と2.5倍に増えており、そのニーズに応えたものが「アマゾンフレッシュ・ピックアップ」といえます。ウォルマートも店舗での引き取りサービスを積極的に行っています …

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