クライアント、エージェンシー、セレブリティなど、多様な人々が登壇するカンヌライオンズセミナー。マーケティング、デジタル、クリエイティビティなど、現在の広告におけるさまざまなキーワードが語られる場として、毎年注目を集めている。そして、このカンヌライオンズセミナーを毎年ウォッチしている人たちもいる。今回、博報堂の皆川治子さん、淮田哲哉さん、岩嵜博論さんに、今年のセミナーでどんなことが語られたのか、聞いた。
Brands for Human、「B4H」の時代へ
淮田:去年からカンヌの中でANA(Association of National Advertisers)と共催し、ユニリーバやP&Gなどのグローバルトップ企業25社のCMOが集まり、マーケティングをどう次のステージへ成長させていくかを真剣に議論する場である「CMOグロースカウンシル」がセットアップされました。今年はその1年間の活動を振り返るセミナーがあり、その中で僕が特に重要と思ったのは、「CMOの役割を再定義すべき」という話でした。
今まではプロダクトや単一ブランドをどうユーザーに売るか、マーケティングするかを中心に考えていましたが、テクノロジーの進化によって1人ひとりにフォーカスしたパーソナライゼーションができるようになり、必然的にマーケティングの方法そのものも変わっていると。キーワードとしてはBtoCではなく、Brands for Human、「B4H」と言っていて、個々の人間にどう向き合うか、また、そのときのブランドクリエイティビティはどうあるべきかという議論がされていたのが印象的です。
岩嵜:B4Hの話は象徴的で、ここ数年のカンヌのトピックとして共通しているのは「ブランドビジネスをどうアップデートしていくか」という点です。AIやデジタルが一巡して、各企業が標準の基盤として使えるようになっているなかで「ブランドは何のためにあるか」が議論されています。近年のトピックはパーパスで、そこに見え隠れしていたのはヒューマニズム、クリエイティビティでした。そういうものが復権してきているのがここ数年のトレンドですね。
皆川:今年新しくクリエイティブストラテジー部門ができて、またストラテジーが注目されているのが印象的でした。デジタルデータ、テクノロジーが世の中に出てくると、データとしてまとめられている事例を探しやすくなります。たとえば10年前にブラジルでキャンペーンをしようと思って広告事例を探そうとしてもなかなか見つかりませんでしたが、今はネットで簡単に検索することができます。
でも、データは必ず過去のものです。ストラテジーは未来を考えないといけないのに、クライアントにROIはどうなの?効率はどうなの?と聞かれると、必ず過去に基づいてしまい、ブランドとして新しいことをやっていきたいと言っているわりにはみんなが臆病になり、過去と比べて新しいことができてないという状況が出てきているんです。デジタルデータの弊害ではありませんが縛られているところがあるので、ストラテジーを改めて見直す必要性を実感しました。
今年のトレンドは「インクルーシブ」
淮田:改めてカンヌのトレンドを振り返ってみると、一昨年がジェンダー、去年はダイバーシティ。そして、今年は「インクルーシブ」というワードが出てきましたね。
岩嵜:インクルーシブでいうと、リテール企業のTARGETのセミナーが面白かったです。TARGETはキッズ向けのアパレルブランドを持っていて、それは障害のある子どもでも着ることができるプロダクトも内包しているラインナップなんです。キーワードは「Soul at Scale」、魂を込めることを小さなスケールではなく、大きな影響力があるブランドがやることに意味があると言っていました …