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ヤングライオンズは、カンヌ本戦に劣らぬチャレンジの場

日本での予選を経て、各部門1組が参加するヤングライオンズ。今年も6部門に、30歳以下の日本の若手クリエイターたちがチャレンジ。PR部門では最高賞となるゴールドを受賞した。今年チャレンジした4組が、どのような思いで臨んだのか。

ゴールドを獲得したPR部門

関谷:谷脇とPR部門に出場してゴールドをいただきました。クライアントは全部門共通のWWFで、PRに出されたお題は、食べ物を生産する過程で森林伐採が起きている状況を解決するために、その認知を高めるキャンペーンを考えるというものでした。僕らは若者の認知を高めるだけでは問題が解決しないから、政治家や産業界のリーダーなどを本気にさせようと考えました。具体的には、世界で一番有名な夕食会であるノーベル賞の晩餐会をハック。肉料理と、昆虫を使ったサステナブルな料理を出して、どちらかを選ばせるという企画を出しました。

谷脇:他のチームは「食事×森林伐採」のセットで企画を考えていましたが、僕らは森林伐採よりも、食事中心に企画を立てました。そのおかげで他とも被らず、最終的にゴールドをいただくことができました。ちなみにブロンズは、スーパーに並ぶ肉の「100グラム138円」の表記の下に「森林は1.2エーカー伐採」と、それをつくるための森林伐採の量を記載するというもの。シルバーは肉の地産地消ができるレストランをつくり、ワクワクして来た人たちに森林が伐採されている荒れ果てた荒野でご飯を食べさせる企画。

どちらもテーマに合っていますが、食事よりも狭めたテーマから発想しているためか企画が若干小さくなっています。僕らは食事という大きいテーマで考え、審査員講評でも「そこが1個目立っていた理由だ」と評価されました。

小出:お題が結構複雑ですよね。

関谷:そうですね。食べ物をつくって森林伐採は起きないと思ってしまうけれど、牛が食べる穀物を量産するために農地を確保しようと森林伐採が起きているそうです。この2つはめちゃくちゃ遠くて一言で言えない課題だから、森林伐採と食事をつくることを一緒にするのは難しいとみんな悩んでいました。僕らも最初はセットで考えていたんですがうまくいかないので、食事だけに絞ったほうが面白くなると思って。

高橋:PRの2人は事前にヤングカンヌについて細かくリサーチをしたと聞きました。

谷脇:リサーチや練習は、今回はそこまでやりませんでした。その代わり、事例の共有とディスカッションを、3年前のカンヌからずっとやっていました。ヤフーニュースで出たPRっぽいキャンペーン対して「なぜこれがヤフートップに出たか」、「なぜコメ欄で批判されているのか」、お互いの感想など、実際の事例の分析を日常的に2人でやりました。そのおかげでPRキャンペーンとして僕らがよいと思うものの型をおぼろげにつくることができたので、事前対策の段階から2人で企画を狭めこんでいく作業に役立てたと思います。

PR部門でゴールドを受賞した作品
PR部門はゴールドを受賞。提出したのは、「ノーベル賞の晩餐会をハックする」企画。

インサイトが重視されたデジタル部門

小出:私は押部さんと組んでデジタル部門に参加しました。課題は、環境保全のために毎月募金するメンバーシップに、ミレニアルズを登録させること。私たちは、子育て世代のミレニアルズが子どもの身長を木の柱に刻むかのように、アマゾンの熱帯雨林に遠隔で刻めるようする企画を提出しました。森林破壊の現場に大切な木を作ることで、森林破壊を自分ごと化させるのを狙ったのです。毎月の寄付で背が毎月伸びていくぶんの身長をマークできるようにして。

高橋:どういう評価基準だったんですか?

小出:実は今回、ゴールドとシルバーが同じアイデアだったんです。日本だとアイデアが被ったら、構造、ロジック、クラフトと見て、一番よいものを残して他は落とすけれど、世界では「良い企画を上にする」という基準が明確。そこが海外ならではでした。企画としては、環境破壊はミレニアル世代よりも上の世代に原因があるから、ミレニアル世代が登録したメンバーシップの代金を、若い頃に環境破壊をした代償として、親に請求させるというアイデアです。

高橋:デジタル部門だけど、デジタルの活用法はあまり見られないんですか?

小出:ゴールドとシルバーはSNSを使う企画でしたが、審査員は「第1にアイデア、第2にメッセージ、その次にデジタル、テクノロジー」と言っていました。

押部:日本予選はエグゼキューションを重視しますが、グローバルではインサイトとコアアイデアが重視されます。そこが日本予選との違いです。ブロンズは「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のスケボーや「スター・ウォーズ」のライトセーバーのような未来のプロダクトをつくるためのサブスクリプション。キックスターターを活用して未来のプロダクトのための出資を集めて、その半分を未来の地球自体が存在するために寄付する、というものです。

関谷:それを聞くと、アマゾンの木にマークする企画のほうがエモいし、いいと思う。

高橋:身長の印は世界共通でやるもの?

押部:調べた結果、アジア全域、ヨーロッパ全域、アメリカ、アフリカなど、全世界的にある文化でした。だからグローバルキャンペーンにできると思ったしプレゼンでもそのように説明したのですが、一番声の大きな審査員が、たまたまその文化のない国の人で、「うちの国ではやらないのでこれはグローバルキャンペーンじゃない。イッツノットスケーラブル」と頑なに納得してくれませんでした。

ただ、それがなかったとしても、これは世界ゴールドのアイデアではありません。日本と世界の評価基準の違いは研究してわかっていたのに、時間内に思いつけず、日本で出すような案を出さざるをえなくなったのが悔やまれます。

デジタル部門の作品
デジタル部門は、子どもの身長をアマゾンの木に遠隔でマークすることで環境保全のための寄付ができる仕組み。

環境の違いが顕著になったデザイン部門

高橋:カヤックの後輩の金子とデザイン部門に参戦しました。課題は、地球環境を守ろうとする16~25歳の若者で結成された団体「Youth for Our Planet」のロゴと展開案。背景としては、環境保護を促進するためにテクノロジーやソーシャルメディアを使って意見を発信するのが得意な若い世代の力が必要で、今やらなかったら地球はおしまいだ、それを解決するためのロゴをつくってほしい、と。そのためには世界共通のモチーフを持ってくる必要があり、かつ、ネガティブではなくポジティブなメッセージにすることが重要だと思いました …

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