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特集 話題を生む! オンライン動画

木村健太郎さんインタビュー「海外事例に学ぶ 見たくなる動画の設計手法」

木村健太郎(博報堂ケトル)

テレビCMとオンライン動画の見られ方の違いとは何か。また、動画の企画を考えるときに押さえておきたいポイントとは?海外広告賞の審査員などを数多く務める木村健太郎さんに聞いた。

能動的に見るメディアだからこそ

「テレビは受動、オンラインは能動で見るコンテンツ。だからオンライン動画では、わざわざ見たくなる、クリックしたくなるモチベーションのデザインがとても大事です」。テレビCMでさえ見てもらうのが大変な時代に、どうやってクリックしてもらうのか。さらに、それをシェアしてもらうには?よほどうまくモチベーションがデザインされていなければ、その高いハードルを越えることはできない。

では、どんな要素がそのモチベーションになりえるのか。「2013年のカンヌライオンズでは強い映像コンテンツへの回帰が見られました。そこにたくさんのヒントを見つけることができます」。例えば、“ストーリーテリング”は「感動するから見たい」というモチベーション。東芝とインテルの連続シリーズ広告「The Beauty Inside」がその代表例だろう。次に“ソーシャルグッド”は、「世の中で起きているいいことを目撃したい」。ブラジルの臓器移植の登録者増に貢献した「Immortal Fans」をはじめとして、多く見られたアプローチだ。

「本当にやっている」ことで関心をひく“リアルドキュメンタリー”のアプローチでは、「Real Beauty Sketches」が強さを見せた。作りこみのクオリティを追求する“スーパークラフト” には、パラリンピックのCM「The Super Humans」が、時事コンテンツへの素早い“リアクション”という点では、ニュースに絡めた日替わりオレオを毎日投稿した「Oreo Daily Twist」が参考になるだろう。そしてメルボルン鉄道のシュールなアニメ「Dumb Ways to Die」は、“エンターテインメント”のど真ん中。それも、皆で歌ったり踊ったりしてシェアできる楽しさで6000万回を超える視聴をたたき出している。

こういった要素が何かしら内包されていることで、視聴するためのモチベーションを喚起することができる。それがソーシャルメディア上では「シェア」という形での拡散となり、メディア上なら「パブリシティ」としての露出になる。「メディア上で紹介される際は言語化されるため、動画の場合は、何が面白いか、なぜ見るに値するのかが一言で言えることも大事です」。

ブランドの取り分よりも
ユーザーの取り分

テレビCMとオンライン動画の性質の違いを考える上では「ブランドの取り分の違い」を考えるとわかりやすいと木村さんは言う。「コンテンツには『ブランドの取り分』と『ユーザーの取り分』があって、その割合がテレビCMとオンライン動画では違います。テレビCMは、視聴者も企業の広告だという前提で見ていますから、ブランドの言いたいことが明確に伝わることが大事。自然とブランドの取り分が多くなります。ですが、オンライン動画は、ネット上に存在する膨大なあらゆる種類のコンテンツと等価で並べられ、見られます。ここで優先されるのは、ユーザーの取り分です。面白いかどうか、役に立つか、楽しいか、感情をゆさぶるか...そういうユーザーが“見たい”コンテンツでなければそもそも関心を持ってもらえません」。

テレビCMは出稿量に応じてある程度の視聴数を確保することができるが、オンラインの世界は完全なる自由市場。ユーザーが能動的に視聴して、かつ拡散したいと思うような「ユーザーの取り分」をきちんと設計しなければ、制作しても全く見られない...という事態も起こり得る。逆に言えば、きちんと設計すれば、コンテンツは一人歩きし、国境も超えて企業の予測を超えた範囲にまで広がっていくということだ。

インテグレーテッドの時代こそ
映像がキャンペーンの中心に

オンライン動画の歴史を振りかえれば、2003年にWebムービーの超大作「BMWFilms」が登場し、そこから企業のオンライン動画の本格的な展開がスタートした。その後、06年にはバイラルマーケティングの一大ブームが起き、米国の大統領専用機に落書きをする「Still Free」など、企業が仕掛ける「限りなくリアルに見せかけたフェイク」なバイラルキャンペーンが多く登場した。07年はその反動で「リアル」がキーワードになり、ユニリーバ ダヴの「EVOLUTION」などドキュメンタリー型の実証広告の比重が高まっていく。その後、ブロードバンドやソーシャルメディアの普及で動画をとりまく環境はさらに変わり、ここ2~3年はソーシャルグッドの視点も強まってきた。13年の受賞作を見れば、フェイク系のバイラルマーケティングは影を潜めているものの、これまでのほぼすべての要素を見ることができる。「BMWFilms」から10年を経て、表現手法としては既に出揃ったと言えるだろう。その中で、特に評価の高い受賞作について共通して言えるのは、時間が経っても色あせない、より普遍的で寿命の長いコンテンツになっていること。どんな表現の仕方であっても、数日で消費されるコンテンツではなく、長く愛され、何度もリピートして見るに足るコンテンツであることが志向されている。

キャンペーンのインテグレーテッド化が進むほど、その中心に象徴的で、強い求心力を持つ動画があることの重要性は増してくる。いつでもどこからでもアクセスでき、見た人の感情を大きく動かすことのできる動画をネット上に持つことの価値に、世界の先進的な企業はもう気づいている。まだテレビCMが中心に考えられることが多い日本企業のキャンペーンでも、事業のグローバル化が進むなか、動画の価値に今後新たな形で光が当たっていくはずだ。


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きむら・けんたろう
博報堂ケトル 代表取締役共同CEO/エグゼクティブ クリエイティブディレクター/アカウントプランナー。

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