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WORLD WATCH

立体映像でアボリジニ神話を語る、豪美術館の3Dオブジェ

梶原さおり

01 「Bunjil's Wings」。プロジェクションはENESSが独自に開発した3Dソフトウェアエンジン「Pixile」を使用。

近年、白豪主義や人種差別などで閉ざされてきた、アボリジニの文化や歴史を追求する動きがオーストラリアで始まっている。先住民たちも、いままで世間に明かしていなかった壁画や岩を削った集合住宅などを公開しはじめ、あまりにも興味深い民間伝承や知られざる伝統に、人々が先住民に抱く印象も変わってきた。メルボルン美術館でも、アボリジニの長老やコミュニティの代表者らが、彼らの知識、物語、文化、生活道具や写真などを提供した展覧会「First People」が今年の9月から始まった。いままで触れることのできなかったアボリジニの歴史や言葉を、インタラクティブな形で身近に体験することができる。

その中でも来場者の注目を一番集めていたのが、アボリジニの神話を語りながら動くマルチメディア3Dオブジェ、「Bunjil'sWings」(Bunjilの翼)だ。「Bunjil's nest」(Bunjilの巣)と呼ばれる真っ暗な円柱型のスペースに入ると、中央に56枚のアクリルの羽で形成されたオブジェが、宙に浮きながら、ゆっくりとまるで波打つように動いている。このオブジェクトこそがアボリジニの神話でこの国を作りだし、創造の神として崇められているイーグル「Bunjil」なのだ。

一定のリズムを保ちながら、魂が宿っているかのように上下に動く一枚一枚の羽に3Dプロジェクションで美しい映像が映しだされる。来場者はアボリジニの神話を英語とアボリジニ語のナレーションで聞きながら、大自然のサウンドスケープに包まれる。そして、「Bunjil」の語る時空を超えた神秘の世界へ引き込まれていく。

Bunjil's Wingsは立体スクリーンなので、360度どの角度からでも見ることができる。アート、テクノロジー、デザインのいずれをとっても美しく、完成度が非常に高い。制作を手がけたメルボルンのマルチメディアクリエイター集団ENESSが最初にコンセプトをコミュニティの代表者らに見せたとき、彼らは「これはまさに私たちの魂の根源だ」と言っていたそうだ。

現代のテクノロジーを駆使しながら、過去に敬意を込め創造された「Bunjil'sWings」は今後10年間、メルボルン美術館にて大きな翼を力強く羽ばたかせながら、アボリジニの神話を人々に語り続ける予定。彼らの長い歴史にしたら瞬く間の期間だが、先住民の過去と現在と未来をつなげる貴重な時間になることだろう。

02 アボリジニの俳優 ジャック・チャールズ(写真)とポーリン・ワイマンがナレーションを担当。

梶原沙央里(かじわら・さおり)

1983年静岡県生まれ。メルボルン在住。2009年スウィンバーン工科大学コミュニケーションデザイン科卒業。デジタルエージェンシー勤務を経て、現在グラフィックデザインのほか、MVや「Typography furniture」などの制作を手がける。東京インタラクティブアドアワード2011 Googleinnovative広告部門で入賞した「Eメールさん」のデザイン担当。
http://cargocollective.com/saorikajiwara

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