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生成AIと広告・マーケティング

2度の「冬の時代」を経て人手至上主義からデータ至上主義へ

山根宏彰氏(富士通)

これまで幾度となく繰り返されてきた「AIブーム」。生成AIの発展と普及により、“第4次”に突入したとも言われる。これまでのブームとは一体何が違うのか。人工知能黎明期から現代までの流れを、山根宏彰氏が解説する。

「データが神になる」か?生成AI創造の歴史を振り返る

AI技術の進化は広告業界を変革し、効率的な広告制作が当たり前になってきた。中でも、大規模言語モデルを始めとしたAIシステムの導入は広告制作の工程を大きく改善し、生産性向上に寄与しはじめてきている。

特に、キャッチコピーの生成や広告効果の予測はAIの活用領域として注目を浴びている。自社のAIシステムにChatGPTを組み込み、広告制作のスピードと効果を向上させている大企業もある。これにより、職種の転換や人間の役割の再定義が促され、広告業界全体が急速に変貌している。

ユヴァル・ノア・ハラリは著書『ホモ・デウス』の中で、「データが神になる」と述べた。ChatGPTを始めとするAIは、どのように創造されたのか、データ、ハードウェア、アルゴリズムの点から遡って俯瞰し、未来を考えてみたい。

図表 AI発展の歴史

人工知能黎明期と人工NNの萌芽

1956年、ダートマス会議において「Artificial Intelligence(人工知能:AI)」がJohn McCarthyによって提唱された。人間そのものの知能や知性を実現する強いAIが目標とされていた。当初は知的とみなされる振る舞いをするプログラムが多く登場した。1966年にJoseph Weizenbaumによって、おしゃべり対話システムのELIZAが開発されている(人工知能学事典, 共立出版2005)。

問題解決を目標とする野心にあふれたGeneral problem solver (Newell+, Proc. int. conf.info. prc., 1959)をはじめ、コンピュータに記号積分を行わせることに成功したり、チェスや数学の定理証明なども盛んに研究されたり、すぐにでも人間並みの知能が実現されるかのような楽観的雰囲気であったと言われている。

なお、現在の人工ニューラルネットワーク(NN)の基礎となる、複数のニューロンを繋げた学習モデル「パーセプトロン」は1958年、Frank Rosenblattによって提唱された。

産業界の期待に応えられない?一回目のAIの冬

1969年に、有限の情報処理能力しか持たない人工知能には、対象世界に存在する全ての問題に対処できないという「フレーム問題」が指摘された(McCarthy and Hayes, 1969)。定理証明やゲームのような閉じたToy Problem(実世界のものでない、いわゆるおもちゃの問題)と呼ばれる問題のみしか解けず、実世界の開いた複雑な問題をAIに解決して欲しいという産業界からの期待には応えられなかった。

さらに人工ニューラルネットワークに関しても、Marvin Minskyが、二層からなる単純パーセプトロンは線形分離不可能なパターンを識別できないことを指摘し(データ特徴が混ざり、一本の直線では区分け不能)、1960年代のニューラルネットワークブームが終わり、1970年代のAI冬の時代をもたらす要因となった。このような背景もあり、AIの研究開発は停滞していった。

エキスパートシステムの登場と洗練された学習技術

汎用の問題解決プログラムで高性能システムを開発するのは困難であり、専門知識および専門的ノウハウとヒューリスティックを持つ者が専門家であるとの考えから(Feigenbaum+, Edin.Uni.Press, 1971)、「エキスパートシステム」と呼ばれる知識を持つ人工知能が登場した。これは「知識の形で表された専門的技術に推論のメカニズムを加えることによって働くコンピュータシステム」と定義されている(グッダル・戸内、啓学出版、1987)。

代表的な例は、1970年代中盤にスタンフォード大学で開発された感染症の診断を行うMycin(マイシン)であり、約500のルールから得られた診断結果は、若い医者よりも優れたものであった(Leondes, Harcourt Sci. Technol., 2002)。この時代のシステムの運用形態は、相談に対し応答するシステムが中心であった(安信・重見, 情報処理 1992)。

エキスパートシステムの登場により、70年代の終盤から80年代にかけて人工知能は第二次ブームを迎えたと考えられている。他にもOpenCycと呼ばれる世の中の森羅万象を知識ベースとして記述しようという試みが始まったのが1984年であり、この試みは2017年まで続くこととなる。

このころ、計算機科学者の福島邦彦は、現在のCNNにつながるネオコグニトロンという視覚野の階層構造に着目した人工ニューラルネットワークを考案している(Fukushima, Biol. Cybern. 1980)※1

※1 余談だが、福島先生はネオコグニトロンの研究を87歳となった現在も続けられている。

80年代後半、David E. Rumelhartらのバックプロパゲーション(誤差逆伝播法)(Rumelhart+, Nature, 1986)の考案により、学習が困難であった多層パーセプトロンの学習が可能となった。さらにLeCunらによって、ネオコグニトロンの発展版ともいえるConvolutional Neural Network(CNN)の原型であるLeNetが考案され、手書きの郵便番号の識別が・・・

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