今月のテーマ:パッケージデザインのクリエイティブ
パッケージには、商品の機能・特徴を伝える販売促進効果はもちろん、ブランド体験が重視される現代、ブランドの世界観を体現し、伝える役割もまた重要になってきています。加えて販売チャネルが多様化する中、チャネル別で異なる消費者の利用シーンも見据えた柔軟なデザインも求められるようになってきました。パッケージデザインの基本から現代の環境に合わせた最先端まで、クリエイティブディレクションのポイントを解説します。
- 販売チャネルが多様化する時代だからこそ重要になるのは、ブランドの体験に根差したパッケージデザイン。
- ブランドに必要なコミュニケーションを吟味する段階から、デザイナーとメーカーの担当者が交流していくことが重要。
- パッケージには、企業の姿勢が示されることが多い。
販路多様化時代のパッケージデザインのポイント!
「ブランドらしさ」をもった商品体験をデザインする
当社、インターブランドは1974年にロンドンで設立された、世界最大のブランディング専門会社で、コーポレートブランディングの仕事ももちろん多いのですが、その中でも私は主にBtoCのプロダクトブランディングのプロジェクトを担当しています。商品のブランディングでは、パッケージは消費者とのタッチポイントとして重要な役割を担っているため、パッケージデザインの仕事も多く行っています。今回は販路多様化時代のパッケージデザインをテーマにお話します。
オンライン、オフライン問わず共通して理解しなければならないのが、ブランドの体験をどのようにつくっていくか、という視点です。その理由について、ブランド論と流通の潮流から説明します。
当初、ブランドの役割は商品を区別するための「記号」でした。当時の流通は大量の商品を並べたいわば「倉庫」のような形態だったため、パッケージの目的としては他社商品と区別できるような記号性が求められていたのです。
それが次第に、消費者が商品をそれぞれの嗜好に合わせて選び始めると、流通は商品を"編集"する必要を迫られます。こうしてパッケージは、店頭で商品価値を伝える販促ツールやセールスマンの役割を担うようになり、目立つように商品のコピーを配置して自らの長所を"しゃべり"始めるようになります。
そして現在では、ブランドは「体験」が重視されるようになりました。流通は、商品・ブランドを体験する場へと変わり、商品のパッケージは「商品を体験する」役割を担うようになったわけです。
ここ数年のパッケージデザインの成功例を見ると、必ずしも"おしゃべり"なパッケージデザインではなく、「ブランド体験に根差した」パッケージデザインの事例も増えてきています。
例えば、ECサイトの「LOHACO」が、メーカーと協業して実現した「暮らしになじむデザイン」を例に挙げます。EC限定商品として、洗練されたデザインを纏った商品を展開する取り組みです。シンプルでおしゃれなパッケージの"グラフィックデザイン"が注目されがちなのですが、それ以上に「ブランド体験に根差している点」が重要なポイントだと思います。つまり、店頭での価値訴求やSP視点からのデザインを排除して、パッケージで「購買後の商品体験」をデザインしている点が革新的と言えます。
とはいえ、店頭のパッケージデザインでは、依然として販促の機能が期待されがちで、"おしゃべり"なパッケージデザインが多いのが現状です。ですが、今後はオンラインやオフラインといった販売チャネルに関係なく、「いかに商品の体験に根差したデザインをするか」という視点が、パッケージデザインのキーになっていくと考えています。
オフラインでの購入体験に根差したパッケージデザインの事例として、当社が携わったマツモトキヨシのプライベートブランドの事例を紹介します。
ECではなく、マツモトキヨシでしかできない購入体験をつくれないか、というところから考え始めたのですが、調べていく中で、薬剤師の方が商品説明の際にパッケージを用いながら説明していることに気付きました。
具体的に言うと、医薬品のパッケージの傾向として、消費者は一番効きそうな商品を選択するということを意識して、店頭で目立つメタリック表現を用いた外装の商品が多いという特徴がありますが、薬剤師はパッケージの裏面に非常に細かい字で記載されている「成分」や「症状」の部分を指しながら、「お客さまにとっては、この商品が最適」ということを説明していたのです。
そこで、店頭で消費者と薬剤師との対話があることに着目し、薬剤師が説明しやすいように「成分」とその「働き」を大きく配するパッケージをデザインしました。つまり、パッケージで消費者の購買体験、ひいては「マツモトキヨシ体験」をデザインしたというわけです …