今月のテーマ:インターナルコミュニケーションのクリエイティブ
「インターナル(社内向け)」のコミュニケーションが果たす重要性は、生活者の価値観が多様化する中で、ますます高まっています。今回は、社員に目指すべき姿を言葉で示すコーポレートメッセージと、コミュニケーションを活性化させる空間デザインのクリエイティブについて紹介します。
- コーポレートメッセージは、全社員が目指すべき方向を明確にする旗印のようなもの。
- ヒアリングなどを通じて捉えた意志や強みに、経営理念やビジョンなどを重ねて、その企業らしい言葉で伝える。
- 継続的にメッセージを対外発信し続けることで、社員に有言実行する気持ちが生まれる。
コーポレートメッセージの設計・定着のポイント!
「生きた言葉」にするための たゆまぬ努力が必要とされる
コーポレートメッセージが果たす役割としては、その半分以上は社内に向けたコミュニケーションのためにあると思っています。もちろん対外的には株主や消費者など世の中に向けた約束の言葉ですが、大切なのは、経営層の考える方向性や企業の価値を社員と共有して、みんなの気持ちを束ね、進むべきベクトルを示す旗印として機能することです。
なので、コーポレートメッセージはつくったら終わりではなく、むしろ完成してからが始まりです。まず、社員の皆さんがちゃんと"腹落ち"して理解し、現場で生きなくては、どんな言葉も意味がありません。その言葉が「生きた言葉」として、機能するためのたゆまぬ努力が求められるわけです。それは地道な道のりではありますが、言い続けて伝え続けなければならないと思います。そして社員のみなさんに理解がゆき届き、自分ごとできる状態となるのが望ましいのだと思います。
たとえ立派なメッセージができたとしても、それが床の間に飾ってある掛け軸のように畏れ多くて、「立派だけど自分には関係がない」と思われる言葉になることのないように、そして、どんな部門で働く社員にとっても、どのような状況でも、現場で迷ったときに立ち返ることのできる言葉であるように。
「こんな時、どうすれば良いんだっけ?」と疑問を感じたときは「うちの会社はこの方向を目指していたんだった」と、コーポレートメッセージを思い出すことで間違えずに進めるように、現場できちんと「働く」言葉として機能することが理想です。
これまでに関わらせていただいたコーポレートメッセージの事例のひとつに、伊藤忠商事「ひとりの商人、無数の使命」があります。伊藤忠商事を含め総合商社という存在は、消費者の生活のあらゆる場面に関わるものを取り扱っているにも関わらずBtoB型のビジネスモデルが多い理由もあり、消費者にとっては関係性が見えづらい業態です。
コーポレートメッセージを制作するにあたっては、「社員が会社を誇りに思えると同時に、消費者にも存在を理解してもらいたい」という、当時の社長のご意向がありました。そこで、向かっていく方向性を呈示するだけでなく、自分たちは何者なのか、自分たちの社会における役割は何なのか、を表すメッセージを目指しました。
コーポレートメッセージを制作する際には、その会社の経営理念やビジョンをはじめとして、これから向かう方向などをしっかり共有し理解する必要があります。加えて、現場で働いている人たちはどのような人たちなのか、何を考えて働いているのかという「現場の声」も捉えながら企業の人格をつかんでいくことが大切です。
伊藤忠商事のケースでは、当時の社長や現場で働いている方など60名以上にアンケートやヒアリングを行いました。そして、伊藤忠商事の最大の強みは「個の力」にあること、そして伊藤忠商事の社員を言い表すときに「商社マン」と言うよりは、一人ひとりの「商人」の集まりと言う方がふさわしいのではないかと思い当たりました。それは競合他社には似合わない、伊藤忠だからこそ財産となる言葉なのだと気づき、「商人」をメッセージの中心に置きました。
コーポレートメッセージを制作する際には、中期経営計画で述べられるような「これからこのような存在を目指したい」といったビジョンを勘案した上で、企業の人格を捉え、その企業らしい言葉を見つけていく作業も行っています …