一生かけて追求する価値のある「PR」の仕事の未来像を描こう
新聞記者、PR会社を経て活動する岡本純子氏によるグローバルトレンドのレポート。PRの現場で起きているパラダイムシフトを解説していきます。
米国PRのパラダイムシフト
読売新聞記者、PR会社を経て活動する岡本純子氏による米国からのレポート。現地取材により、PRの現場で起きているパラダイムシフトを解説していきます。今回はニューヨーク、イギリスの観光PRの事例からインバウンド増加のヒントを探ります。
官民組織であるNYC&Companyによる、ニューヨーク観光のポータルサイト。ソーシャルメディアも駆使し、2014年には約1300万人の観光客や地元民にアプローチした。
「故郷は遠きにありて思ふもの」という詩の通り、NY滞在中は、日本の安全性、観光資源の豊富さ、食べ物の質など、アメリカにはない良さや強みをしみじみ懐かしく思ったものだった。同時に、日本はまだまだ海外にその素晴らしさを伝えきれていない、と実感することも少なくなかった。アメリカには「日本に行ってみたい」という人は圧倒的に多いが、日本で5年後にオリンピックが開かれることを多くのアメリカ人がまだ知らないし、物価が高く、手の届きにくい国と思われている節もある。2020年の東京五輪に向けて、「観光立国」を目指す日本にとって、グローバル観光PRは大きな課題だ。
2014年の訪日外国人客数は約1341万人。10年で2倍以上と順調に増加しているが(図1)、世界的に見ると、海外からの訪問客数は22位とまだまだ少ない。1位のフランスは8370万人、2位のアメリカは7475万人と、日本の6倍前後の水準だ。日本の観光産業はまだまだ伸びしろがあるということだろう。
そこで、今回は、日本の観光振興のお手本となりうる世界の事例やトレンドを踏まえ、グローバル観光PRの10のヒントをご紹介したい。まずは、世界有数の観光都市・ニューヨークの事例から。
ニューヨークの観光客数は右肩上がりに増加しており、2014年は2009年と比べて約1000万人増の5640万人と過去最高を記録した。その陰には官民一体となった、実に多彩な誘致活動がある。
ニューヨークで観光客向けの誘致活動を一手に担っているのが、NYC&Companyという官民組織。ニューヨーク市、ホテル、博物館、美術館、航空会社、観光施設、デパート、レストラン、交通機関、コンベンションセンターなど観光に携わるありとあらゆる団体・企業が名を連ねた会員組織で、活動費用の全体の予算規模は2014年の一年間で約3550万ドル(約43億円)。うち、3分の1の1200万ドル(約14億円)を市が拠出し、残りの3分の2が会員からの拠出などで賄われている(ちなみに東京都は2015年予算で「外国人旅行者等の誘致」に前年比224%増となる81億円を計上)。
民間の知恵と資金、ネットワークを余すところなく使い倒す、というのがこの組織の特徴で、様々な企業・団体の代表者たちが頻繁に集い、アイデアやお金を出していく。企業がこぞって協賛し、様々なイベントが企画されていくというわけだ。
ニューヨークは美術館や博物館など観光資源も豊富だが、年間を通して、イベントが盛りだくさん。しかもタダだったり、リーズナブルな値段で楽しめたりする。特に、閑散期を盛り上げようと考案されたのが、1〜2週間の期間限定でお得なサービスなどが楽しめる仕組みだ。例えば、Broadway Weekでは1月と9月のそれぞれ2週間に限って、ブロードウェーのチケット2枚を1枚の価格で買うことができる。また、NYC Restaurant Weekでは夏と冬の一定期間、市内の多くの有名レストランで3コースのランチが25ドル、ディナーが38ドルで食べられる。物価の高いニューヨークでは、普段はなかなか手の届かないミシュランガイドで選ばれたレストランなども数多く参加しており、市民や観光客に大人気の企画だ。
その他にも市内では、Fashion Week(ファッションブランドのショーが市内各所で開かれるイベント)、Spa Week(市内の美容サロンなどが一斉にお得なサービスをプロモートする)など、各種○○Weekが花盛り。横断的に街を挙げて展開することで、話題も格段に集めやすくなる。
NYが安全でファミリーフレンドリーな街であることをアピールしようと活用されるのが、子ども向けのキャラクター。おさるのジョージやドーラなどといった絵本・アニメのキャラクターを「ファミリーアンバサダー」として起用し、街頭の広告やネット、刊行物などで子ども向けの施設やイベントのガイド役とする仕掛けだ。デパートのメイシーズと協力して、グッズを開発するなどのコラボも生まれている。
また、グローバル観光キャンペーンのローンチにあたり …