もし雑談で話したことが意図しない形で記事になってしまったら――?休暇中に交わした会話の内容を記事にされたとしてミクシィの朝倉元社長が日経BP社に抗議した問題から、現場記者の声とともに考える。

1対1の取材が多い新聞記者とのやりとりの中では、「言った」「言わない」というトラブルも多い。
6月に社長を退任したミクシィの朝倉祐介氏が、日経ビジネスオンライン(日経BP社)に掲載されたインタビュー記事について「記事にはしない、単にお近づきまでと応じた雑談を了解なく記事にされた」として、抗議コメントを掲載するという騒動があった。
朝倉氏のツイートによれば、日経ビジネスオンラインは、6月7日に記者が島根県で休暇中だった朝倉氏に取材し、16日に「渦中のミクシィ社長を離島で直撃 電撃退任と今後について聞いてみた」と題した記事を掲載。内容は退任の理由などについて語ったもので、ネット上の評価も悪くなかったものの、朝倉氏はオフレコという約束だったのに掲載された点に抗議。ニュースアプリ「NewsPicks」のコメント上で「非常に悲しい」などと述べた。
朝倉氏と記者の間にオフレコをめぐってどのようなやり取りがあったのかは定かでないが、新聞記者と取材対象は1対1のやり取りが多いため、リップサービスで話したことが意図しない形で記事になってしまった、というのは非常によくある話。そんなとき、「これは記事にしますよ」と取材先やネタ元にあらかじめ断るかどうかは、記者の間でも意見が分かれるところだ。
あるベテラン記者は「相手に警戒されるし、『書きますよ』とは絶対言いません。それに、相手も重要なことを記者の前で話したら記事になるということぐらい分かって話をするんでしょうし」というスタンス。実際、今回取材した記者の中には、事前に取材先に話したことで、掲載を強く反対されて取りやめたケースや、記事掲載前に記者会見を開かれ特ダネを潰された経験がある人もおり、事前に話すことはリスクが高いと感じている人が多いようだ。
一方、「事前に断る」派の記者からはこんな意見もあった。「特ダネであっても、取材先には必ず事前に『書きますよ』と言います。それは自分にとって、取材先をはかる“リトマス試験紙”のようなもの。それで他社に情報がもれたり、こちらのネタを潰そうとしてきたら、それで関係は終わりです」。
また、こんな考え方の記者も。「書きます、とははっきり言わなくても、ネタ元には最低限の“仁義”を切りますね。例えば、別ルートで端緒を取ったネタでも、紙面に出る直前にその人に取材をして、こちらが書くと言うことを暗に知らせます。もちろん、その時点で『載せないで』と言われたとしても掲載するのですが、翌日紙面に出た後の準備ができるようにします」。
直接的にしろ、間接的にしろ「こういう記事が出ます」と相手に知らせることは、記者にとってリスクが高いこと。重要なシーンで記者から一声掛けてもらえるかどうかは、いかに今後も付き合っていきたい相手だと思わせるかどうかにかかっていると言えそうだ。