下町ボブスレーを支えるのは、1号機は32社、2号機、3号機は約60社の町工場の技術。それぞれが特定分野に強みを持っており、協力して1つの「作品」をつくり、国際舞台で勝つことでその技術力の高さを証明しようとしている。
最高の舞台で技術力を証明
「ボブスレーそのものがPRメディア」。東京都の大田区産業振興協会・広報チームの松山武司氏はそう断言する。下町ボブスレーは2011年秋にスタートしたプロジェクト。大田区内にある32(1号機、2・3号機は約60社)の町工場が協力してボブスレーのソリをつくる。日本チームがそれを2014年のソチ冬季五輪で走らせて金メダルを獲るのが目標だ。「ボブスレーのソリそのものを売ろうとは、今のところ考えていない。まず五輪に採用されること、さらにはその世界最高峰の舞台で勝つことが技術力の証明につながると考えています」。
プロジェクトを提案したのは、同協会主任コーディネーターの小杉聡史氏だ。大田区には約4000の町工場があり、その8割が特定の加工技術に特化した10人未満の中小企業。地価が高いのであまり広い工場を持つことはできず、自社で一つの商品をつくり上げることはほとんどない。必然的にBtoBのビジネスが中心になり、大手企業との守秘義務のため、その技術力をPRする機会を逃すことも多かった。何とかして大田区のものづくり技術の高さをアピールしたい。大阪の人工衛星「まいど1号」や墨田区の深海探査機「江戸っ子1号」をヒントに「大田区でも具体的なものを通して技術力をアピールできないか」と考えた。実は、小杉氏は元大田区役所からの出向職員。区役所でプロジェクトを提案したところ、アイデア賞に。可能性を感じた小杉氏は、同協会の出向期間にプロジェクトの実現にこぎつけた。
小杉氏自身がスポーツ好きということもあり、五輪競技に使われる道具に注目した。氷上のF1とも言われるボブスレーは、欧米では人気スポーツ。イタリア代表はフェラーリ、ドイツ代表はBMWなど、有名企業が国家予算でソリの開発を進めている。一方、日本チームは外国製の中古品を購入し、調整して使っているため、ソリの改良もままならず選手も困っていることをニュースで知った。初の日本製ができたら話題になるし、人助けになると考えた。