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広報担当者のための企画書のつくり方入門

ステークホルダーをファンに変える戦略的な広報企画をつくりたい!

片岡英彦氏(東京片岡英彦事務所)

「広報関連の新たな企画を実現しようとするも、社内で企画書が通らない……」。そんな悩める人のために、広報の企画を実現するポイントを伝授。筆者の実務経験をもとに、企画書作成に必要な視点を整理していきます。

ファン育成は企業価値を高める最重要課題

「ファン」とは、製品やサービスを支持するだけでなく、企業の価値観に共感し、自発的にその魅力を周囲に広めてくれる存在である。広報活動においてファンを育てることは、単なるブランド認知の向上を超え、企業価値を高める最重要課題といえる。

現代では、企業の透明性や社会的責任が強く求められている。ステークホルダーとの信頼関係が企業の成長を左右する時代だ。株主、地域住民、従業員など、多様なステークホルダーをファンに変えることは、危機への耐性を高め、持続可能なビジネス基盤を築く鍵となる。しかし、ファンづくりは一方通行の情報発信では実現できない。双方向のコミュニケーション、共感を生むストーリーテリング、そして継続的なエンゲージメントが求められる。

今回は、広報活動でファンを育てるための戦略と、経営層を説得できる企画書の作成ポイントについて考えていきたい。

視点1
ファンを育てる広報戦略が求められる理由

企業への信頼性と透明性への要求の高まり

現代の企業は、ステークホルダーから高い透明性や社会的責任が求められている。企業の信頼性を損なう事態(データ漏洩や環境破壊など)は、ブランドイメージや経済的損失に直結する。このような状況下において、企業が単なる利益追求ではなく、社会の一員としての責任を果たすことは、持続的な成長の基盤となる。例えば、地方の食品メーカーが規格外野菜を使った新商品を開発し、透明性を高めるため生産者の動画をSNSで公開した。この取り組みにより「地元愛」を感じた消費者からの共感が広がり、売上向上や地域住民の自主的なイベント開催へとつながった。この事例は、社会課題解決を軸とした活動がファンづくりの起点となり得ることを示している。

SNSによる情報拡散リスクの増大

一方、SNSの普及により、情報が瞬時に拡散される時代では、小さなミスや誤解が企業全体に重大な影響を与えるリスクも高まっている。例えば、ある飲食チェーンが実施した無料提供施策では、意図が十分に伝わらず「不公平だ」という批判がSNSで拡散された。しかし、迅速な声明発表と背景説明を行い、ファン層からの支持によって沈静化に成功した。この事例は、日頃の信頼関係がリスク緩和に直結することを物語っている。これらの事例が示すように、企業の透明性や社会的責任を強化し、ステークホルダーとの深い信頼関係を築くこと、ファンを育てることは、危機時の対応力を高め、長期的な成長を支える基盤となるのである。

図 ファンを育てる戦略の必要性

現代社会の環境変化

●情報技術の進歩とグローバル化
企業活動がリアルタイムに世界中で監視される

ステークホルダーからの要求の高まり

●企業への信頼性の向上要求
●透明性確保と社会的責任の遂行
CSRや環境への取り組み、コンプライアンスの重視

SNSによる情報拡散リスクの増大

●ネガティブ情報の制御困難と影響力の増大
炎上によるブランドイメージの低下リスク

ファンを育てる戦略の必要性

●日頃からの信頼関係構築
●ファンの存在がリスク緩和につながる
ネガティブ情報への理解や擁護の役割

ステークホルダーの多様化と期待値の上昇

企業のステークホルダーは、株主や顧客、従業員だけではない。地域社会、環境団体、政府機関など、さまざまな人々や組織に広がっている。それぞれのステークホルダーは、企業に対して異なる期待や要求を持っており、企業が果たすべき役割も複雑になっている。ある環境団体は環境にやさしい経営を求め、地域社会は雇用の創出や地域貢献を期待する。従業員は働きやすい職場環境や公平な評価を望み、投資家は長期的な利益とリスク管理を重視する。このように、ステークホルダーごとに期待が多様化し、高まっているため、すべての要求に応えるのは容易ではない。

そこで、各ステークホルダーとの深い信頼関係を築く戦略が求められる。ステークホルダーが誰で、何を求めているのかを正確に把握し、適切なコミュニケーションを取ることで、企業への信頼と支持を高めることができるのだ。

従来の一方通行型の情報発信では不十分

従来の広報活動では、プレスリリースなどを通じて企業から情報を発信する形が主流だった。しかし、一方通行型の情報発信では、ステークホルダーの声を拾い上げることが十分ではない。現代のステークホルダーは、情報の受け手であるだけでなく、発信者としての役割も担っている。SNSやブログ、口コミサイトなどを通じて、自身の意見や感想を広く共有する。このような環境下での広報担当者は、双方向のコミュニケーションを促進し、ステークホルダーの声に耳を傾ける姿勢が求められる。

ある企業は、新製品の開発において消費者の意見を取り入れることによって、製品の満足度を高めるだけでなく、ブランドロイヤルティの向上にも成功している。従来手法の限界を超え、ステークホルダーを巻き込みファンを育てる戦略は、企業の持続的成長に不可欠な要素となっている。企業としてファンと真伨に向き合い、彼らの声に耳を傾けていくには、明確な目標設定とステークホルダー分析にもとづいた計画が不可欠である。鍵となるのは、戦略を具体化し、経営層や実行チームを説得できる企画書の作成である。ここからは、企画書で押さえておきたい5つの重要なポイントを解説したい。...

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