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広報担当者のための企画書のつくり方入門

Web3時代に適した「コミュニティ」運営を基点にした広報企画書をつくりたい

片岡英彦氏(東京片岡英彦事務所)

「広報関連の新たな企画を実現しようとするも、社内で企画書が通らない……」。そんな悩める人のために、広報の企画を実現するポイントを伝授。筆者の実務経験をもとに、企画書作成に必要な視点を整理していきます。

共創の場をデザインするWeb3広報

インターネットは「Web3」時代へと移行しつつある。その特徴は、ユーザーが単なる情報の受け手ではなく、“分散型コミュニティ”の一員としてプロジェクトに参画する点にある。

従来の広報活動は企業発信が中心だったが、Web3における広報戦略の鍵となるのは、ステークホルダーを共創者とし、ブランド価値を共に高めていくこと。信頼と対話を基盤に、コミュニティを育み、共感を喚起する発信をすることにある。広報企画書においても、従来のマスメディア重視から、コミュニティにおける対話、インフルエンサー連携、透明性重視の情報開示へと、Web3ならではの戦略が必要となる。

今回は、Web3時代に適した広報企画書のポイントと実践への道筋を考えていきたい。

視点1
Web3時代の広報の新潮流

Web3とは何か?

「Web3」は、大手IT企業に依存した現在のインターネット(Web2.0)から一歩進んだ、新しいインターネットの形を指す。例えば現在のSNSでは、プラットフォーム企業がユーザーデータを管理・活用しているが、Web3では、分散化された環境で、特殊な暗号技術によりユーザー自身がデータや資産を直接管理する。また、Web3のプロジェクトでは、ユーザーに独自の「デジタル資産」が発行され、それを持っていることでプロジェクトの運営に参加できる。例えば、あるブランドコミュニティの一員として商品開発の投票に参加したり、プロジェクトの収益の一部を受け取ったりすることが可能となる。

Web3では従来の「企業対顧客」という関係を超えて、ユーザーがプロジェクトの価値向上に積極的に関わることができる。より深いユーザーエンゲージメントや、新しい形でのロイヤルティプログラムが実現できるものと期待されている。

従来の広報との比較

Web2.0までの環境下では、広報活動の中心はメディアやSNSを介した情報発信で、広報担当者の役割は「注目を集める」「良い印象を与える」ことが主であり、メディア向けのプレスリリースや広告的なメッセージが多く用いられた。

しかし、Web3時代には「対話」が伴となる。ユーザーはプロジェクトの理念や価値を重視し、深く理解した上で関わることになる。自ら提案や意見を出し、コミュニティ内で議論を重ねていく。そうした中で広報活動は、これまでの一方的な情報拡散から、双方向のコミュニケーションを通して「共感」と「信頼」を醸成する活動へとシフトする。広報担当者が注目を“勝ち取る”のではなく、コミュニティ全体が「ブランド創造の主体」となる。

図1 Web2.0広報との違い

Web1.0広報

初期のインターネット環境では、発信されたコンテンツをユーザーが閲覧する一方通行。

Web2.0広報

SNSなどのプラットフォーム上で、双方向のコミュニケーションが可能に。ユーザーの注目を集めて拡散を狙う広報、良い印象を与える広報が主流。

Web3広報

特定のプラットフォームに依存せず、ユーザーが相互につながり、通信や取引を行う。ユーザーに商品開発の投票に参加してもらうなど、共創の場をデザインしていく広報へ。

広報部門の新たな役割

こうした変化に伴い、広報担当者にはコミュニティの声を基点とする双方向のコミュニケーション設計が求められることになる。単なる周知活動にとどまらず、プロジェクトの価値や理念を多方面へ伝え、共感と参加意識を育む役割へと転換していく。

(1)コミュニティファシリテーター

Web3時代の広報には、プロジェクトチームと参加者をつなぐ「コミュニティファシリテーター」としての役割が求められる。具体的には、DiscordやTelegram(いずれも無料のチャットアプリ)などを活用し、お知らせの配信、ユーザー意見の収集、議論の活性化などを行うことが標準となっている。多くのグローバルプロジェクトではこれらのプラットフォームでコミュニティを運営している。

一方、日本市場ではLINEとXが主流であるため、多くのプロジェクトはグローバル向けと日本向けで異なるプラットフォームを使い分ける「ハイブリッド型」のコミュニケーション戦略を採用している。Web3の広報には従来の情報発信に加え、複数のプラットフォームを活用したコミュニティマネジメントのスキルが不可欠となっている。

(2)ストーリーテラー

Web3プロジェクトは、新しいブロックチェーン(*)の仕組みや、従来とは異なるビジネスの考え方を取り入れているため、一般の人には理解が難しい面がある。広報担当者は、これらを分かりやすく伝え、共感を得られるよう「物語」として表現する力が必要だ。その際、技術的な説明だけでなく、「このプロジェクトが世の中をどう良くするのか」「参加することで何が得られるのか」「将来どんな可能性があるのか」といった点を、明確な言葉で伝えることが大切である。そうすることで、様々な関係者の理解と支持が得られる。

(3)信頼関係の構築者

Web3では、トークンやNFT、DAO(*)といった新しい仕組みが次々と登場し、それに便乗した詐欺や誤った情報が広がるリスクも存在する。広報担当者は、正確な情報発信や法律に沿った対応を通じて、プロジェクトの信頼性を確保する役割を担う。具体的には、運営状況の公開や外部機関による審査結果の共有などを行い、ユーザーが安心してプロジェクトに参加できる環境を整える必要がある。

*ブロックチェーン:取引やデータを分散型ネットワーク上で記録する技術であり、改ざんが困難な分散型台帳として…

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