2023年の1月に本格的な事業化が予定されている花王の新事業「仮想人体生成モデル」。老舗の大手メーカーである花王による、資産を生かしたビジネスモデルへの挑戦について、デジタル事業創造部 部長 鈴木愛子氏に話を聞いた。
人体に関する計測の知見で新たな事業を構築する
企業活動においてサステナビリティを求める世界の潮流は、日本の企業にも浸透しつつある。さらに理念倒れに終わることがないよう、多くの企業が具体的な数値目標を掲げている。国内有数の消費財メーカーである花王が2022年に発表した「仮想人体生成モデル」も、持続的な社会において必要とされる企業であることを目的にスタートしている。
同プロジェクトは、最先端の計算科学技術を有するPreferred Networks(PFN)と、身体・心理・生活に関する研究資産を持つ花王がタッグを組んで進めてきたもの。データを一部のみ入力することで、1859項目にもおよぶ関連項目の推定値が算出できる。
立ち上げの経緯についてデジタル事業創造部 部長の鈴木愛子氏は「2020年の12月に、現社長の長谷部(長谷部佳宏氏)がこの先5年の構想“K25”を発表。そこで示されたのが、花王はこれまでの資産を生かしつつ、“消費財をつくる”以外にも価値を提供しうることがあるのではないかという課題意識でした」と話す。花王の資産について改めて考え直したところ、「人間の体」に関する知見という資産が挙げられた。
「当社の商品の多くは直接、人の肌に触れるものです。そのため、人体への影響に関する計測・健康に関する研究を長年にわたり取り組んできました。肌や髪に関する知見や『バブ』などの商品に生かされている血行促進、歩くという動作に関する知見もある。それらの研究資産をデジタル技術と組み合わせることで、世の中に貢献できるのではないかと考えたのです」。
事業を考える際には、K25の「プレシジョン・ライフケア構想」に沿って進めたという。これは、消費者が抱える未解決課題に対し、最適なソリューションを提案していく構想なのだという。
その一部に貢献する「仮想人体生成モデル」について鈴木氏は、「例えば、このモデルに年齢・身長・体重・性別をインプットすると、モデルが備える他の推定値が算出されます。体の状態だけではなく、習慣、性格傾向、嗜好性などといった要素も推定値を出すことが可能です」と説明する。入力項目の種類を...