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宣伝担当者が知っておきたいクリエイティブの基本

広告クリエイターが知っておくべき ビジネスにおける人権尊重

矢守亜夕美氏(オウルズコンサルティンググループ)

    「ビジネスと人権」3つのポイント

    ☑企業には「人権リスク」を特定し、その予防や是正に取り組む義務がある。

    ☑実際に起こっている人権侵害を軽視もしくは矮小化してしまうような表現にも注意が必要。

    ☑「守り」を強固にしつつ、クリエイティブで人権課題を解決・改善する「攻め」の観点も意識。

「人権」の観点を無視したビジネスは成立しえない

「最近、新聞や経済ニュースで『人権』という言葉を耳にする機会がやけに増えたなあ」と感じているビジネスパーソンの方は多いのではないでしょうか。「ビジネスと人権」や「人権デューディリジェンス」といった言葉に聞き覚えがある方も多いかもしれません。かつては道徳や倫理を説くような文脈でのみ使われてきた「人権」という単語が近年、ビジネスの世界でも急速に注目を集めるようになっています。

この潮流のきっかけとなったのが、2011年に国連が策定した「ビジネスと人権に関する指導原則」です。国連人権理事会で採択されたこの原則は、「すべての企業には人権を尊重する責任がある」ことを初めて明言した画期的なもので、その後の国際ルールに大きな影響をもたらしました。この指導原則の採択前後から現在までに、米国・イギリス・オーストラリアなど多くの国が、企業に人権尊重の取り組みを求める法律を次々と制定しています。

また、ここ数年の間に中国・新疆ウイグル自治区における強制労働の疑いや、ミャンマーでの軍事クーデター、ウクライナへの軍事侵攻など、基本的人権や平和そのものに危機を及ぼすようなニュースが次々と報じられ、国際社会を揺るがしているのはご存知の通りです。現地で活動する企業の多くも、人権を守るための迅速な対応や経営判断を迫られています。こういった国際ルールや国際情勢の流れの中で、「ビジネスにおける人権尊重」は、企業にとっての重要テーマのひとつになりつつあるのです。

人権対応で国際的に後れをとってきた日本企業

一方で、日本企業の人権への取り組みは、欧米諸国に比べると大きく後れをとってきてしまったのが実情です。

例えば、第三者機関(海外NGO)が有名企業の人権への取り組み状況を格付けする「企業人権ベンチマーク(CHRB)」では、対象となった日本企業の多くが低い評価に留まっています。これは、自社の事業やサプライチェーンにおける「人権リスク(人権に及ぼしうる負の影響)」を特定し、予防・是正の対策をとる「人権デューディリジェンス」と呼ばれる一連のプロセスについて、日本企業の取り組みや情報開示が遅れていることを示します。先行する欧米企業と比べると、日本企業はまだまだ「人権対応の劣等生」と見られているのです。

ですが、昨今の国際潮流を受けて、今まさに日本でも取り組みが急加速しています。2020年10月に外務省が「『ビジネスと人権』に関する行動計画」を公開し、今年8月には経済産業省が「責任あるサプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン」案を発表しました。将来的には法制化も視野に入れた議論が進んでいます。こうした政府の動きを受けて、多くの日本企業も急いで取り組みを強化しているところです。

広告クリエイターが意識すべき「人権リスク」とは?

先ほど触れたように、企業には、自社の事業活動やサプライチェーンの中で発生しうる「人権リスク」を特定し、その予防や是正に取り組む義務があります。では、企業が注意すべき「人権リスク」には、どういったものがあるのでしょうか。

図1にあるように、注意が必要なリスクの種類は非常に多岐にわたります。企業による...

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