発想力強化の極意
☑「ひらめく時」は、制約が明確である時。
☑5Wを柔軟に変化させることでひらめきの量を増やす。
☑「統合思考」と「転換思考」でその質を高める。
ひらめくためには創造性やセンスが必要?
まず最初に皆さんにお聞きしたいことは「ひらめきには創造性やセンスが必要だと思いますか?」という問いです。私の答えは、「必要ない」です。ひらめきにはある条件があり、その条件が満たされると誰しもがひらめくことができます。
それでは、条件とは何か。それは「制約が置かれていること」です。「え、制約なく自由に発想していい時の方がひらめけるのでは?」と思うかもしれません。しかし、現実はその逆で「こんな制約の中で考えるなんて無理」という時にこそ、私たちの創造性は開放されていきます。
「なんでもいいからこれまでにない椅子を考案して」と言われても、頭は真っ白、それほど斬新な発想は生まれないでしょう。それよりも「一人暮らしで話し相手がいない高齢者が家で使う、生活にハリが出る椅子を考案して」と言われると、よっしゃ、いっちょ考えよう、となるかもしれません。制約がある方が、思考にスイッチが入るのです。
「ひらめく時」というのは、制約が明確である時
では、ひらめきを生み出す制約について解説していきます。
具体的には、制約は5Wを組み合わせて設定します。よく5W1Hと言われますが、1HのHowはアイデアそのものです。Howを導き出す条件が5Wに該当します。
例えば先程の高齢者向けの椅子の例で考えてみましょう。まずWho:誰のための椅子なのか。ひとり暮らしで話し相手がいない高齢者でした。続いてWhy:目的です。何のための椅子なのか。生活にハリを出すため。続いてWhere:椅子だとするとどこで用いられる椅子か。これは家の中です。
続いてWhen:いつの時間を想定しているか。ひとりでいる時です。続いてWhat:何についてのアイデアか。アイデアを生み出すカテゴリであったりアイデアに用いるシーズです。ここではカテゴリと捉えてください。この場合のカテゴリは椅子です。第一に言えることは、「ひらめく時」というのは、制約が明確である時であり、さらに制約が変われば生み出されるアイデアも変わります。
人は24時間、ひらめき続けることができるか?
「24時間ひらめき続ける?え、どういうこと?」と思われたのではないでしょうか。24時間は言い過ぎだとしても、人はひらめき続けることはできるのかどうか。答えは「できる」です。なぜか、理由は簡単です。制約=5Wをそれぞれ複数候補を出し、それぞれの組み合わせを変えることでアイデアを生み出し続けることはできるのです【図1】。
例えばこんなイメージです。「これまでにないペンをつくり出せ」というテーマでひらめきを求められるとしましょう。5Wの候補をそれぞれ出してみます。Whoで言えばおばあちゃん、学校の先生、お父さん、花嫁さん、など複数出します。この中で例えばWhoに「花嫁さん」を採用してみましょう。「花嫁さん(Who)が、待合室に一人で(Where)、挙式前(When)に、緊張をやわらげるための(Why)、ボールペン(What)」だとします。
この制約からは「化粧台の前に見えるようにペンが置かれており、ペンには小さなデジタルディスプレイがあり、そこに挙式会場で待っている人からの応援ショートメッセージが表示される」といったアイデアが出せます。この制約のうち例えばWhenの「挙式前」を「両親への手紙を読み上げる時」に変えれば、ペンのアイデアは異なるものになるでしょう。このように、5Wの組み合わせを変えることで、アイデアは無限に生み出すことができます。
ひらめきの質を決めるWhyの制約
ひらめき続けることができる、言い換えるとひらめきの量を増やすことができるのはイメージいただけたかもしれません。5Wを柔軟に変化させることで、ひらめきの量は圧倒的に増やせます。しかし、量だけでは「よいひらめき」を担保できるとは限りません。つまり、例えば宿泊マッチングのAirbnbが「世界中のホームに宿泊できる」という価値を備えているように、ひらめきの質=「これまでにない価値を備えている」をどうやって担保するかという問題が出てきます。
鍵は5WのうちWhyにあります。つまり、目的です。どのような目的であれば質の高いアイデアを生み出し得るのでしょうか。それは、「トレードオフが組み込まれている目的」です。トレードオフとは、どちらかを満たせばどちらかが満たせなくなるという状態です【図2】。
例えば「コストゼロで美味しい料理をつくる」という目的が該当します。ここでは「コストゼロ」と「美味しい料理」というのが、同時に達成することが困難な矛盾の状態にあります。コストをゼロに近づけるほど素材の調達や高いスキルの料理人が確保できなくなるため「美味しい」が危ぶまれます。一方で「美味しい」を追求すればするほど「コストゼロ」が危ぶまれます。このように、両立しえないはずのことが同居した目的は...