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宣伝担当者が知っておきたいクリエイティブの基本

鍵は、いかに「体験」をつくれるか?「空間デザイン」でブランドを表現する

引地 耕太(1→10(ワントゥーテン))

テレビCMからソーシャルメディアの投稿まで、消費者との接点が格段に増えたことで、おのずと広告・コンテンツ制作が必要とされる場面も、そのバラエティが広がっています。担当者自らに制作スキルが求められるもの、外部のパートナーのディレクション力が求められるものがありますが、本特集では双方を織り交ぜながら、特にアウトプットの完成度を高める実践的ノウハウ・考え方を解説していきます。

五感でつくる、ブランド体験の基本

ブランドの世界観を表現する方法は多くありますが、中でも空間を活用したリアルなブランド体験に注目する企業が増えています。五感が刺激される空間、また、形のないブランドを体現する良いブランド体験とは、どのようなものなのでしょうか。より良いブランド体験を提供する空間の考え方について最前線のプロフェッショナルが解説します。

    「五感でつくる、ブランド体験」のここがポイント!

  • ブランドを表現するには、まずコンセプトを明確にすること。
  • 効果指標は、SNSの拡散数より「質」に注目すべし。
  • 「空間デザイン」とは単なるデザインだけでなく、その場にいる人がブランドを体験できる場をつくることだと心得るべし。

複雑化した時代だからこそ課題に合った「処方箋」が必要

僕は普段、空間デザインに限らず、デジタルとリアルを横断した「体験」のクリエイティブディレクションを得意としています。これまでブランディングやアートディレクション、映像演出、デジタル施策など、さまざまな領域を横断したクリエイティブディレクションを手掛けてきましたが、今回はブランディングの観点から空間づくりにまで関わった経験を基にお話します。

ここ近年で当社が携わった空間づくりも含めた総合プロデュースのプロジェクトのひとつに「日本財団パラリンピックサポートセンター」があります。日本財団パラリンピックサポートセンターは、パラリンピック競技団体・アスリートをサポートすることを目的に2015年11月に創設された施設ですが、こちらのブランディングやアートディレクションを担当しました。

センターの立ち上げの時期にどういった施設にするかという空間デザインのコンペがあり、当社も参加したのですが、当社ではまず、「単純に空間デザインの話として向き合えば良いのか」を考えました。ただ、かっこいい空間デザインを手掛けることが課題解決につながるのか。

パラスポーツはこれまでは福祉的目線で据えられがちでした。ですが、実際に見てみるとオリンピック競技に引けを取らないくらいエキサイティングなんです。僕らはパラスポーツをリブランディングするためのプロジェクトだという気持ちで取り組みました。

設定した「i enjoy!」というキーワードには「障がいに関わらず、楽しむ気持ちが強さに変わること」がメッセージとして込めました。i=「個」にフォーカスすることで相反的に「多様性」という言葉が浮かび上がってきます。さらに、障がいのあるなしに関わらず、個人がいきいきと人生を楽しめるような多様性を認め合う社会へ…という思いも込められています。

VIやコンセプトムービー、ポスター、参加型のWebサイトなどを統合的に展開していき、リアルなコミュニケーションの場としてセンターの空間デザインのディレクションを当社で行いました。

その他にも、デジタルを空間に生かした事例として、パラアスリートたちの競技に焦点を当て、VRなどのデジタルテクノロジーを用いたエンタテインメント「CYBER SPORTS」シリーズというプロジェクトも行っています。

これはスペキュラティブな視点を持ったインタラクティブアート作品でパラスポーツをテクノロジーにより拡張し、エンタテインメント性を纏うことで、体験を促し社会全体を巻き込み、障がいと社会に対する視座と「問い」を生み出すことを目的としています。

今年の1月に第一弾として開発された「CYBER WHEEL」は、車椅子レースをVRで体験できるというもの。今夏にはパラスポーツ競技であるボッチャを、センシング・データビジュアライズ・サウンドによって演出する「CYBER BOCCIA」をリリースしました。

ここまで自分が手掛けた事例を紹介しましたが、僕がお伝えしたいことは、現代は提示された課題に対して、1つの手法だけでは"解"にはなりづらい時代になっているということです。

現代は目の前にある課題解決のための手法が昔と異なり、見えにくくなっている時代です。そのため、課題にあった複数の手法を組み合わせる提案が必要になります。「空間デザイン」といっても、ただデザインを考えれば良い時代ではなく、より複合的な提案が必要となっているのです。

事例1 「CYBER SPORTS」シリーズ「CYBER WHEEL」

事例2 「CYBER SPORTS」シリーズ「CYBER BOCCIA」

ブランドを表現するために「空間」を重視する企業が増えている

こうした中、ブランドの世界観を表現するために"空間"というリアルな場を重視する企業が増えています。例えば、期間限定のポップアップストアや、オフィス、企業ミュージアムといった場を重要なブランド体験の場と位置付ける意識が広がっていると感じます。

企業ミュージアムを例にすると、企業が伝えたい思いや、製品の制作過程を生活者に伝えようとする動きが見られます。この背景には、「メディアの多様化と広告の無効化」がひとつの理由として考えられます。昔はソーシャルメディアがなかったため、例えばイベントを実施する際は、来場者数がKPIとなり、母数が限られていました。

しかし、現在はソーシャルメディアが浸透したことで、来場しない人もイベントについて知ることができる。SNSに投稿する人は、自分が体験したことを投稿する人が多いですよね。これまでは来場者数がそのままKPIとなっていたのが、今ではSNSを基点に拡散することが求められる。つまり、イベントの質が変わってきています。

よく「インスタ映え」という言葉を耳にしますが、企業が企業の伝えたいことを一方的に発信するのではなく、企業が伝えたいブランドのフィロソフィーをエンタテインメント化して、コンテンツとしての「場」を提供することで生活者に体験してもらい、SNSで拡散してもらうという流れがあります。

そこに集まる人たちもブランドをつくる重要な構成要素

空間デザインを含めたクリエイティブディレクションのご相談をいただいた際、僕はまずクライアントに「あなたの会社にとって、ブランドって何ですか」を問うようにしています ...

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