テレビCMからソーシャルメディアの投稿まで、消費者との接点が格段に増えたことで、おのずと広告・コンテンツ制作が必要とされる場面も、そのバラエティが広がっています。担当者自らに制作スキルが求められるもの、外部のパートナーのディレクション力が求められるものがありますが、本特集では双方を織り交ぜながら、特にアウトプットの完成度を高める実践的ノウハウ・考え方を解説していきます。
五感でつくる、ブランド体験の基本
ブランドの世界観を表現する方法は多くありますが、中でも空間を活用したリアルなブランド体験に注目する企業が増えています。五感が刺激される空間、また、形のないブランドを体現する良いブランド体験とは、どのようなものなのでしょうか。より良いブランド体験を提供する空間の考え方について最前線のプロフェッショナルが解説します。
- 空間を手掛ける際には、まずブランドが体現したいコンセプトを設定すべし。
- 押しつけがましい施策ではなく、自然に受け入れてもらうことを意識すべし。
- その場だけでなく、空間を出てからもブランド体験できるようなクリエイティブを意識すべし。
「五感でつくる、ブランド体験」のここがポイント!
思わず写真を撮りたくなる!フォトジェニックポイントを設計
私たち、トランジットジェネラルオフィスは「ICE MONSTER」や「MAX BRENNER」などの飲食店の運営やプロデュースで名前を知っていただいていますが、"空間創造総合企業"として、空間やコミュニケーションデザインなどのブランディングプロデュース事業も手掛けています。
飲食に業態を限らず、さまざまな空間をプロデュースしてきましたが、今回は私がPRとクリエイティブを担当した、当社が運営するカフェ「Pacific DRIVE-IN」を事例に、PR目線での飲食店ブランディングのポイントを企業のブランド体験の場づくりに生かすという観点からお話します。
「Pacific DRIVE-IN」は、2015年3月に神奈川県七里ヶ浜にオープンした、"ハワイのプレートランチ"をコンセプトとしたドライブインカフェです。ここに店舗をオープンした理由は、当社の代表である中村貞裕の強い思いもあったのですが、海岸沿いに位置し、サーフスポットでもあるこの店舗でなら、ハワイに通じるものもありますし、当社らしいライフスタイルの実現が可能なのではないかと考えたためです。
江ノ島と富士山の両方が見える、絶景スポットであることは訪れる方からは好評なのですが、都心からの距離は集客を難しくもしていました。「七里ヶ浜のお店まで、どうしても行きたい」と思ってもらえるような店舗にしたいと考え、SNSの力に着目。至るところに、思わず写真を撮りたくなるフォトジェニックポイントをつくりました。
その際に重視していたのは、「いかにその場に訪れ、写真を撮りたくなるような体験を演出するか」。当時はまだInstagramに注力している企業は少なかったかと思いますが、当社ではInstagramが今後、トレンドになるのではないかと予測していたため、どうしたら女の子が写真を撮りたくなるかを、念頭に空間設計をしました。
しかし、「写真を撮ってもらいたい」という思いがあったものの、Instagramに載せてほしいからといって、狙いすぎた設計にしてしまうと、押しつけがましくなってしまい、引かれてしまう可能性もあります。あくまで狙いすぎず自然に撮りたくなる流れをつくることが重要です。店舗にきてくださった方が自然にInstagramで拡散してくださるのが理想でした。
ブランディングの成功はその空間を体験したくなる店舗
こうした空間をつくる際、大切なのは明確なコンセプトを定めることです。特に飲食店は場所、インテリア、料理、サービスなど多様な要素で、その空間がつくられるので、核となるコンセプトがとても重要になります。
ちなみに「Pacific DRIVE-IN」では、まずハワイアンヴィンテージというコンセプトが設定されました。
開店に際しては、フードを担当したスタッフらと共に、ハワイに赴き、現地のドライブインカフェをいくつも訪れて、パッケージや店内の様子、看板などの撮影を行い、ローカルな空気感を研究しました。こうしたプロセスを通じて、"ハワイのプレートランチ"というコンセプトを具体化するアイデアをつくりこんでいきます。
一方で、情報が多く集まる現代はSNSなどの発達により、その場に行かなくとも情報が得られ、体験しているかのような気分になってしまいがち。そうした中で、わざわざ足を運んででも体験したいと思ってもらえるような空間をつくることが求められます。
「このカフェでしか食べられないメニューを食べに行く」という方は多くいるかと思いますが、「このカフェでしか体験できない、空間を楽しみに行きたい」と思ってもらえることが、ブランディングとしては成功と言えるのではないでしょうか。
こうしたことを意識し、狙ったのは「私もここで撮りたい!」と思ってもらうことです。フォトスポットとなりそうな場所を多くつくることだけでなく、「インスタ映え」するようなロゴなどのキービジュアルを大事にしようと、細かなクリエイティブにも注力しました ...