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注目トレンド 2016

消費行動にも影響する、「シェアサービス」業界の未来予想図

2015年、広告・マーケティング界でも、世間一般でも注目が高まったシェアサービス。消費価値観に大きな影響を与えることが予測されるが、この業界は2016年、そしてその先、どのような進化を遂げていくのか。

(左)グローバルエージェンツ 代表取締役社長 山崎 剛 氏
(中)AsMama 代表取締役社長 CEO 甲田恵子 氏
(右)スペースマーケット 代表取締役 CEO 重松大輔 氏

―事業内容と、起業のきっかけを教えてください。

重松:スペースマーケットは「お寺から野球場、結婚式場、古民家、お化け屋敷まで、ユニークなスペースを簡単にネットで1時間単位から貸し借りできる」をキャッチフレーズに、空きスペースと、それを利用したい人をマッチングするサービスです。2014年4月にスタートして1年半が経ち、現在は4000以上のスペースを取り扱っています。事業を立ち上げたきっかけは前職で、ウエディング写真販売サービスを立ち上げたこと。営業で訪れる平日の結婚式場は、当たり前ですが閑散としていた。土日祝日はフル稼働しているのに、もったいないなと思ったのです。逆に会社の会議室は、土日祝日は基本的に空いています。セキュリティの問題などはあるものの、貸し出せば、需要はあるだろうなと思った。どんなスペースにも必ずある、非稼働の時間をマネタイズしたいと思いました。

甲田:AsMamaは、全国で年間1000回もの地域交流イベントを開催しながら、顔見知り同士が子どもの送迎や託児を頼り合えるインターネットを活用した仕組み「子育てシェア」をインフラとして普及させるべく、取り組んでいます。創業は2009年ですが、「子育てシェア」を開始したのは2013年。最初から子育て領域に特化しようと思ったわけではありませんでした。とある理由でそれまで勤めていた会社を辞めることになり、ふと世の中を見渡したときに、子育て支援の重要性を痛感したのです。「働きたいのに働けない」という女性は300万人にのぼり、「社会のために役に立ちたい」と思っている人は全国民の約7割にのぼる(2008年度版国民生活白書)。これは、もったいないなと思いました。

そうして、「シェアリングエコノミー」という言葉もまだなかった時期に、子育てに主軸をおきながら、ペットの散歩や家事支援など幅広いメニューをラインアップし、支援したい人/してほしい人をつなぐサービスをスタートしました。事業を進めていく中で、「子育てを誰にも頼れないために、女性が離職する」ということが社会にもたらす、マイナスのインパクトが大きすぎることに気づき、安心して子どもを預けられる仕組みを整えることで、女性が生き生きと働くことができる環境をつくることに注力しようと決めました。2015年12月現在、登録件数は3万件。年間1000回の交流イベントを通じて500万世帯に直接アプローチできるので、そのリソースから考えれば、サービスの浸透は、まだまだこれからだと思っています。

山崎:グローバルエージェンツでは、「『世界が広がる』居住スタイル」をコンセプトに、住人同士の交流・コミュニケーションを楽しめる賃貸住宅「ソーシャルアパートメント」を提供しています。物件を検索できるマーケットプレイス的なWebサイトはありますが、それに加えて、自ら物件を保有してエンドユーザーに提供している点が、他のお二方とは異なる点かと思います。通常の賃貸マンションに、共用のラウンジスペースを用意し、そこでコミュニケーションが生まれ、コミュニティが自発的に形成される――そんな新しい住居スタイルを提唱したのが、ちょうど10年前の2005年です。

現在、35棟、およそ2000室を提供しています。最近は、「人が集まる場づくり」を軸に、宿泊施設にも事業領域を広げています。事業を着想した2004 年は、Facebookやmixi、GREEといったソーシャルメディアが流行した頃。僕もあらゆるアカウントを持ち、いろいろな人とつながっていく面白さに夢中になりました。一度会っただけでは、その場限りで終わってしまう関係も、例えばGREEをやっている人同士なら、次につながる可能性がある。僕はそれをネットだけではなく、リアルでサービス化していこうと思ったのです。

―黎明期と現在とで、シェアサービスはどう変化したと感じますか?

山崎:日本でビジネスを展開する上では、意思決定者の中心層である50 ~60代に受け入れられるかが重要な基準になると思いますが、徐々に、そうした方々からも一定の理解が得られるようになったと感じています。ソーシャルアパートメントは、まず海外居住経験のある一部の若年層が利用し始め、次に利用者の裾野が広がり、最後に50~ 60代を中心とする物件のオーナー側にも受け入れられるようになっていきました。

甲田:江戸時代まで遡ってみても、「何かをシェアする」行為はすごく自然なことだったはず。それにシェアリングエコノミーという名前を後からつけてセグメントし、産業化しただけと捉えています。昔からあった「シェア」を、人工的に仕組み化するようになった時期を「黎明期」と呼ぶとすれば、今が黎明期かもしれません。山崎さんがおっしゃったように、mixiやGREEが登場したことで、これまでは見えなかった「つながり」が可視化された。ただ、当時の「つながり」は、それ自体は利益を生むものではなく、つながる場に掲出される広告がSNSの主な収入源だったわけです。そこから一歩進んで、「誰かのニーズに、誰かが応える」というシェアリングそのものを事業収益化しようというフェーズが、今なのです。

“流行っている”と感じるのは一部の人だけで、道端で10人に尋ねたら、おそらく知らない人のほうが多いと思います。こうした中、まさに今日(12月14日)、シェアリングエコノミーに携わる事業者6社で「シェアリングエコノミー協会」を立ち上げました。各社の目先の利益を伸ばそうというのではなく、まずは「シェアする」ということの価値や安心感を広く世の中に知ってもらうことで、市場成長のための土壌をつくることを目的としています。

―米国では市場規模の大きいシェアリングエコノミーですが、日本に合った広げ方はありますか?

甲田:日本に合った、というより、分野に合ったやり方が必要な気がします。例えば子育てなら、「インターネットを使って、安価で簡単に子どもを預けられる」より、「信頼できる人に、安心・安全かつ気兼ねなく子どもを預けられる」ことのほうがターゲットニーズに合っているし、その価値を伝えていくことで、サービスを必要としている人にきちんと届いていくはず。大企業や行政、芸能人が使っているといった事実も、サービスの信用力を上げ、経験者数を増やしていく上では効果的だと思います。

重松:サービスの“世界観”の設計は重要ですよね。ただ安価というのではなく、「こういう思いや世界観を持っている」ということは、伝えていかなけれならないと思います。

甲田:確かに。AsMamaも、登録料・手数料・保険料が一切かからず、支援者へのお礼は1時間500円なのですが ...

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