マス広告だけではリーチできない層が増え、広告・クリエイティブのアプローチも年々変化している。デジタル化のさらなる加速が予想される2016年、広告・クリエイティブが果たすべき役割とは。

(左)読売広告社 統合プロモーション局 第3ソリューションルーム クリエイティブディレクター 皆川壮一郎 氏
(中央)TBWA\HAKUHODO クリエイティブディレクター 近山知史 氏
(右)電通 CDC プランナー/イラストレーター 尾上永晃 氏
デジタルでこそ重視されるブランド
―自己紹介をお願いします。
皆川▶ 読売広告社に入社後、2013年に博報堂ケトルに出向し、現在は読売広告社に戻っています。営業、ストラテジックプランナーを経て、コミュニケーションデザイン職をしています。
尾上▶ 電通のCDCという部署のプランナーで、デジタルを軸としたキャンペーン設計を主にやっています。手法にとらわれずに企画をしつつ、たまにイラストやWeb漫画も描いたりしています。
近山▶ 僕は博報堂に入社後、CMプランナーとして育ちました。2010年にロサンゼルスのTBWA\CHIAT\DAYへコピーライターとして社内留学をし、現在はTBWA\HAKUHODOでテレビに限らず幅広く仕事をしています。
―現状の広告・クリエイティブの課題をどのように捉えていますか。
近山▶ 課題そのものを見つけることが難しくなっているように感じます。例えば、10年ほど前は、企業のブランドの重要性が盛んに言われていた時代でした。現在は、ブランドをつくるにあたって解決すべき課題があいまいになっています。そもそも、ユーザーはどのようにブランドというものを捉えているのか、また何がブランドを構築する要素になっているのかすら、クリアになっていないように感じます。
皆川▶ たしかにいわゆるブランド論って聞かなくなりましたね。一方向的なコミュニケーションが効く時代であれば、テレビCMをはじめとするコミュニケーションによって、企業のブランドイメージを向上させることができましたが、現在はそれが難しくなっています。
尾上▶ 僕が入社した2009年ごろは、広告がマスからデジタルに移行していくなかで、デジタル上でブランドはそこまで強く意識されていませんでした。ただ、これだけデジタル化が進み、予算をデジタルに割くようになると、稀にマスより目立つケースも出てきてしまう。デジタルでこそ、ブランドを意識しなくてはいけない時代になってきているのかなと思います。
近山▶ 情報の流通経路の複雑化に伴い、マスでブランド広告を発信するよりも、日々、ブランドとしてどうあるべきかが問われるようになっていますよね。
情報の総量を増やす仕組みの設計

皆川氏が手がけた事例
C.C.Lemonの「キミだけの応援歌ムービー」キャンペーン。松岡修造さん自らが歌・作詞を担当し、ニックネームを呼びかける100パターンもの“元気応援歌ムービー”を制作した。
皆川▶ 広告といった「表現」だけでブランドをつくることが難しくなっているということですよね。つまり、「ユーザーとどのようにつながるのか」ということでしか、ブランドづくりが成り立たなくなっている。最近は、「表現」なのか「仕組み」なのか、また「広告」なのか「情報」なのかということを考える機会が多くなりました。単純に、出稿量が多ければ「表現」で貫き通せます。ただ限られた予算でより多くのリーチをとろうとするなら、「仕組み」を考えることが重要です。その際は「広告」をつくるというよりも「情報」をつくることになります。結局、いくら良いコンセプトやメッセージを考えても、それを流すところがなければ意味がないんです。ニュースで取り上げられたり、SNSでトレンドになるためにはどうすればいいのか。つまり、世の中で「情報」の総量を増やす「仕組み」をどう設計するかということです。
尾上▶ C.C.Lemonの松岡修造さんが応援歌を歌う「キミだけの応援歌ムービー」のキャンペーンは、まさにその「仕組み」をつくっていましたね。
皆川▶ そうですね。あれは主にデジタルでの展開でしたが、結果的にはお茶の間まで届くものになりました(累計1700万回以上再生※2015年12月時点)。修造さんが“名前”を呼んでくれて、まるで本当に自分のために熱く応援してくれているような動画の「表現」だけでなく、元気のない友だちや家族の“名前”も見つけて、彼らにこの動画を送って元気づけてあげるという「仕組み」まで設計できたのが、成功の要因だと思います。厳密には呼んでいるのを“名前”ではなく、“ニックネーム”にしたことも、より多くの人をカバーするための重要な「仕組み」でした。
尾上▶ 僕も「表現」と「仕組み」の関係について考えることがあります。マスの表現は、すごく右脳的で、ぐっとくるかどうかが大事です。デジタルだと、ぐっとくるという感覚をどう「仕組み」として跳ねさせることができるかが求められます。良いチームは、これが融合していると感じます。
近山▶ そもそも日本と海外とではクリエイティブの捉え方が違うなと。社内留学してショッキングだったのは …