広告換算以外の手法でメディア露出の効果を測定するための企画書を書きたい!
「広報関連の新たな企画を実現しようとするも、社内で企画書が通らない……」。そんな悩める人のために、広報の企画を実現するポイントを伝授。筆者の実務経験をもとに、企画書作成に必要な視点を整理していきます。
広報担当者のための企画書のつくり方入門
「広報関連の新たな企画を実現しようとするも、社内で企画書が通らない……」。そんな悩める人のために、広報の活動別に企画を実現するポイントを伝授。筆者の実務経験をもとに、企画書作成に必要な視点を整理していきます。
動画を活用したPR方法についてアドバイスの依頼を受けることが増えてきた。しかし、動画を活用したPRと聞くと、いわゆる「バズ動画」のようなゲリラ的なコミュニケーション手法を連想する方が多いかもしれない。
確かに“バズる動画”を制作して「社名の認知度を高めたい」「若年層に向けて“クチコミ”で商品情報を拡散させたい」というご相談を受けることもある。
一方で、テレビCMをそのまま自社サイトで公開するだけで「動画PR」を実践していると自負する企業もある。また、採用情報やIR情報、CSRやSDGsへの取り組みなどを、数値やグラフを用いることで「しっかり説明したい」という企業もある。一口に「動画PR」といっても企業によって、その思いは様々なのだ。
考えてみれば、「動画」はコミュニケーションの“手法”のひとつにすぎない。「文章」「写真」「イラスト」「図表」を使って表現するのと基本は同じだ。現在は“動画PRブーム”といえるほどに注目されているが、企業が用いるPR手法としては比較的新しい手法でもある。撮影、編集など制作におけるハードルも高い。広報担当者の中には苦手意識をお持ちで敬遠される方もいる。
私はテレビ局の番宣担当だったこともあり、番組宣伝の素材として動画を活用することが、当たり前の環境でキャリアが始まった。そうしたこともあって、動画PRについて相談を受けると、まずはあまり考えすぎず、気軽に始めてみることをお勧めしている。それだけ導入のメリットは大きい。
一方で、動画活用のメリットは“単に目立つ(認知度アップ)”だけではない。顧客や社会との長期間にわたるパイプ(関係性)づくりや、ブランドイメージを向上させるためのメッセージ配信など、様々な可能性を秘めている。
そして、具体的にどうやって動画PRを企画すればいいのか?という話になると、「戦略」「戦術」「クリエイティブ」の3つのフェーズに分けた企画書の作成をお勧めしている(図1)。
自社のコミュニケーション戦略、マーケティング戦略全体の中で、動画を使う意味・目的を明確にする。
❶動画でしかできないことは何か?(排他性)動画で達成したいことは何か?(目的)
❷動画の視聴前と視聴後で見た人の何が変わるのか?(効果/態度変容)
❸具体的にどういう「数字」を達成するのか?(数値目標)
単に制作して公開するだけでは、ターゲットに見てもらうことはできない。自然拡散(クチコミ)は多少するかもしれないが確実ではない。目標を達成するにはターゲットに届くまでの“見てもらう”ための「仕組み」を企画する。
❶広告
❷ネットPR(ネットニュース等)
❸SEO
❹SNS(自社アカウント)
❺その他(既存顧客、ステークホルダー、インフルエンサー等)
動画の具体的コンセプト、長さ、データ形式、制作スケジュール、制作予算、誰が動画を制作するのか(撮影/編集担当、制作会社)等の企画を行う。
❶動画のコンセプトは?
❷現実と動画イメージの乖離を防ぐには?
❸ベストな長さは?
❹外部の制作会社に委託する内容は?
動画制作の目的はひとつに絞る
「動画制作=目的」ではない。動画を使って何を実現したいかが重要だ。企業が動画を制作する目的には図2のようなものが考えられる。「目的」はひとつではないかもしれない。だがひとつの動画に多くの目的をもたせることは得策ではない。制作の意図が曖昧になるからだ。見る側の「心」を動かす(揺さぶる)クリエイティブも制作しにくくなる。
●商品/サービスのPR
●企業ブランドの浸透と向上
●事業内容の理解推進
●採用活動(新卒/中途)
●社会貢献活動(CSR)の報告
●IR(投資家向け)情報
●社内広報(トップメッセージ等)
動画でしかできないことを明確にする
動画を使うコミュニケーション上のメリットはいくつもあるが、「なぜ動画でなければならないか?」を明確にしたい(図3)。動画制作はテキストや写真だけの場合よりも、多くの費用や人的リソースを必要とする。「本当に動画である必要があるのか?」は費用対効果の面でも検討するべきだ。
●Attention(注目)を得る
●Interest(興味)を引く
●内容を理解しやすい
●記憶に残る
●シェアしやすい
動画ならではの、様々なメリットがある中で、動画PRの目的に沿ってメリットの中のどれにフォーカスするかが企画書の制作上で重要だ(図4・5・6)。
「すでに認知度が高い自社の主力商品の“新しい食べ方”を提案」
●商品名はすでに知られている。「悪目立ち」するのは避けたい
●意外性のある「新しい食べ方」なので興味は持ってもらえるだろう
●誰でも簡単にできる食べ方なので映像を使ってシンプルに説明できる
●YouTube配信を検討しているが、多くの類似コンテンツに埋もれないか心配
●「意外性」をフックに、なるべく多くの人に「シェア」してほしい
商品PR(新しい食べ方の提案)
悪目立ちすることなく「素直な驚き」を感じてもらう「意外に簡単」な食べ方であることを強調し、他者へシェアしてもらえる動画を制作する
「企業の知名度の低さを改善し、少数の理系の院生を採用したい」
●独自性の高い「事業内容」と研究開発者に優しい「社内環境」を訴求したい
●採用サイトを訪れる理系学生に、先輩社員たちの言葉を通じて「分かりやすく」伝えたい
新卒採用の強化(事業内容と職場環境の理解推進)
比較的長い動画で事業の独自性(独自技術)を分かりやすく解説研究所や職場環境について、研究職の若手社員が学生に近い目線で伝える
動画が目指す「効果」「態度変容」を言語化する
動画によってどういった「効果」を狙うのか。企画書作成にあたって重要なのは、できる限り“具体的に”「効果/態度変容」を言語化することだ(図7)。必要に応じて「ペルソナ」の設定なども行う。具体的であればあるほど、この先の「数値目標」の設定がしやすくなる。
「目的多様な事業展開を行っているにもかかわらず、農作物の専門商社のイメージが強く、改善したい」
農作物を扱う専門商社
農作物分野に加え、A社が行う3つの事業領域(化学、繊維、医薬品)についても事業内容を理解してもらいたい
農作物以外も扱う中堅商社
数値目標を決める
言語化した「効果/態度変容」は、具体的にどういった数値に表れるのか。忘れがちだが、数値目標を設定しておこう。最終目標を定量的に評価するKGI(Key Goal Indicator)が決まったら、KGI実現のための切り口(重要成功要因)であるKSF(Key Success Factor)を定める。さらにより具体的な通過地点にあたる数値(例えばPV数)であるKPI(Key Performance Indicator)を順番に設定していく。
いずれ公開後の動画単独の目標設定(KPI)を細かく設定する必要はあるが、企画段階では動画によって達成したい究極のゴールが何であるかが明確であればよい。動画単独ではなく、広報戦略全体の視点で動画PRの目的を考える。
「戦略フェーズ」で数値目標が決まると、以降の「戦術フェーズ」「クリエイティブフェーズ」で、具体的にどのようなアクションを行えばいいか企画しやすくなる。
A社の農業以外の3つの事業(化学・繊維・医薬品)についても事業内容を理解してもらう
●社名を知る人も「扱う商材」として農作物だけを想起する割合は80%である
●「化学・繊維・医薬品」を想起するのは合計10%に過ぎない
●「化学・繊維・医薬品」を想起する人の割合を2年後に30%に高める
2年後の調査で、自社が「扱う商材」=「化学・繊維・医薬品」として想起する人を30%に高める(農作物だけを想起する人を60%にする)
動画PRにありがちな失敗は、広報担当者が動画制作に一生懸命になってしまうあまり動画公開後の施策がないがしろになるケースだ。プレスリリースの“投げ込み”のごとく、完成した動画をYouTubeなどの投稿サイトや自社サイトに“投げ込み”公開が完了すると全て終わったような気持ちになってしまいがちだ。くれぐれも動画は制作して終わりではない。どうやってPR動画を見てもらうか(回転させるか)という次の課題についての企画が必要だ。
PESOモデルを活用した露出の仕組み
公開した動画にアクセスを集めるために、基本は「自社サイトへの掲載」、自社が持つ「SNSアカウントで告知」「プレスリリースの配信」などが考えられる...