パブリシティ獲得からオウンドメディア活用まで広報企画の立案を指南する、片岡英彦氏による人気連載「企画書のつくり方入門」を書籍化する。ここでは本書収録の鼎談を一部紹介。企業に今求められる物語の紡ぎ方や広報成果の示し方について語り合った。
「社会をどう変えたいのか、どう役立ちたいのかを語るのがパーパス」高広氏
「企業のナラティブと生活者のナラティブ、両方をカバーする文脈を開発する」本田氏
「施策の前と後に測定、その差分を見て広報成果を語れているか」片岡氏
パーパスは物語化できる
片岡:このところ企業がパーパスやストーリーといったものを大事にするようになったと感じています。長い間、企業コミュニケーションに関する議論というと、広告にいくら使うかとか、メディアミックスをどうするといった内容が中心でしたが、そこに広報的なアプローチとしてストーリー性を重視する風潮が高まりました。さらに今、ナラティブという考え方に注目が集まりつつあります。これらの言葉の整理を改めてお願いできますか。
本田:まずパーパスとは、企業の社会的存在意義のことです。社会においてなぜその企業が存在するのか、世の中の側に立って存在意義を説明しているものがパーパスという理解です。これまで、ミッション・ビジョン・バリューという考え方が浸透していたので、パーパスとミッションの差がつきにくいという話はよく聞きます。ミッションを、パーパスに近い内容に設定している企業もあるのですが、「わが社は市場シェア1位になります」というようなミッションは、パーパスとは言えません。
高広:パーパスとミッションの違いは、『キングダム』で説明すると分かりやすい。『キングダム』は中華統一を目指して(後の)始皇帝たちが近隣諸国と戦う話ですが、戦乱の無い平和な世をつくる(=パーパス)ために中華統一をしたい。そのためにわざわざ悲惨な戦いを行っている(=ミッション)。これは極端な例ですが、社会をどう変えたいのか、社会にどう役立ちたいのか、というのがパーパスで、その実現のためにミッションがあるとすると、ミッションが複数あってもおかしくないんです。
本田:どういう社会をつくりたいか、どういう世の中を良しとするか。それと自社の存在の関係性を言語化するのがパーパス。そのためにわが社は何をするのか、はミッション。そう整理ができますね。ただ現代企業の場合、『キングダム』のようにパーパスとミッションに矛盾があるとうまくいかなくなりますが。パーパスというのは企業にとって重要で、それを起点として物語化もできるんです。世の中の側から自社について語るものなので、多くの人から共鳴されるような物語になりますし、企業が事業に関して様々なストーリーを紡いでいく時の起点にもなり得ます。
ナラティブの当事者は誰か
片岡:学生から「広報活動ではストーリー性が大事なんですよね?」と聞かれた時の答えは“YES”です。でも「ストーリーってなんですか?」と言われた時の説明が難しい。というのも、多くの学生が思い浮かべるストーリーというと、ポカリスエットのCMのようなコンテンツなんです。ちょっと古い例ですが高校の朝礼中に校長先生が歌い出して、高校生役のタレントさんが学校を飛び出して走っていくような。でもそれは「広報活動でいうストーリーとかナラティブとは、ちょっと違うんだよ」と説明したいのですが。どう整理したらいいでしょうか。
本田:CMや小説、映画でも、そこでのストーリーには起承転結があって、そのフォーマットの中で完結しているんです。先ほどのCMの例は、ポカリスエットの素敵なストーリーであって、学生さんたちが毎日生活している中にある「自分たちの物語」とは相容れない場合もあるのではないかと思います。自分自身の物語というのは現在進行形で終わりがありません。この、自身の語りのほうをナラティブと呼んでいます。ストーリーとナラティブには互換性もあるのですが、ナラティブは自分と周りで編んでいく、共創性があります。