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広報担当者のための企画書のつくり方入門

VTuberを活用した広報企画をつくりたい!新手法を戦略的に導入しステークホルダーとの関係構築を強化

片岡英彦(東京片岡英彦事務所)

「広報関連の新たな企画を実現しようとするも、社内で企画書が通らない……」。そんな悩める人のために、広報の企画を実現するポイントを伝授。筆者の実務経験をもとに、企画書作成に必要な視点を整理していきます。

VTuber活用で広報活動はどう変わる?

VTuber(バーチャルYouTuber)は、デジタルコンテンツの世界における重要な転換点として注目されている。従来のYouTuberやインフルエンサーとは異なる存在であり、そのユニークな存在感と視聴者とのインタラクティブな関係によって、これまでの広報手法とは一線を画す可能性を秘めているが、それを企業戦略に組み込む際には、適切な理解と慎重なアプローチが求められる。

私の周囲にいるマーケティングや広報の専門家の間では、VTuberが「若い世代に人気」という認識はあるものの、「自社でVTuberを活用する必要があるのか、ブランドイメージを損なうリスクはないか」といった声も聞かれる。今回は、VTuberを用いた広報企画書の作成法を詳述し、この新しいコミュニケーション手段を戦略的に取り入れることで、組織の目的達成にどのように貢献できるかを考えたい。

視点1
広報におけるVTuberの可能性

新時代のコミュニケーションツール

VTuberは、個性豊かなキャラクターを通じて親近感とエンゲージメントを生み出すことができる。伝統的な広報手法に比べてユーザーとの距離は近い。そのため、企業や組織のイメージ構築、情報伝達、信頼関係の維持といった広報活動の目的を達成する新たな手段としての役割を果たす。VTuberを活用することで、単なる情報の伝達にとどまらず、企業の個性や価値観を体現しながら、対話型のコミュニケーションを通じてステークホルダーとの関係を強化することが可能である。さらに、言語や文化の壁を越えて幅広いオーディエンスにリーチする能力を持ち、多様なコミュニケーション戦略の展開において重要な役割を担うことができる。

企業の声に人格と物語性を加える

広報は企業や組織の姿勢とメッセージを公に伝え、理解と信頼を獲得することを主眼に置く活動である。広報活動は企業の「声」として機能し、対外的なコミュニケーションを通じて企業イメージを構築するが、VTuberはこの「声」に人格と物語性を加えることで、より深い共感と関係性を生み出すことができる。VTuberを企業の「声」として広報活動の一つとして位置付けることで、伝統的なプレスリリースや公式声明とは異なる、インタラクティブで親密なコミュニケーションも可能となる。

図1 広報とマーケティングの違いと広報におけるVTuberの位置付け

広報活動

企業・組織の(正しい)姿勢を伝える(企業の「声」)→理解・信頼の獲得

↑↓

マーケティング活動

市場(消費者)ニーズを満たす製品・サービスの開発・販売→顧客との取引により顧客満足を提供

広報におけるVTuber活用

企業の「声」に「人格と物語性」を加える→より深い共感と関係性→インタラクティブで親密なコミュニケーション

特性と強みに着目する

VTuberの最大の特性は、その柔軟性と拡張性にあるといえる。リアルタイムにオーディエンスと対話できるだけでなく、異なる文脈やシナリオに応じてキャラクターの設定を変化させることができる。また、アニメーションのキャラクターとしての親しみやすさを活かし、文化的なアイコンとしての地位を築くことも可能である。従来の広報手法では到達しえなかったオーディエンスとの新しい関係性を構築する強力な手段だといえる。企画書を作成する上では、VTuberの特性と強みに着目し、どうやって自社とオーディエンスとの間に「新しい関係性」を構築していくかを意識したい。

図2 VTuberによるコミュニケーションの特性

❶リアルタイムインタラクション

VTuberは、リアルタイムでオーディエンスと対話する能力を持っている。これにより視聴者は直接的かつ個人的なつながりを感じることができる。この対話により視聴者の質問に答えたり、コメントに反応したりすることができるようになり、オーディエンスのエンゲージメントと満足度を高める

❷カスタマイズ可能なキャラクター設定

VTuberは見た目や個性、背景ストーリーを柔軟に変更できる。これにより、特定のキャンペーンやイベントに合わせてキャラクターをカスタマイズし、オーディエンスに新鮮な経験を提供することが可能になる

❸文化的アイコンとしての地位

特に若者の間では文化的なアイコンやロールモデルとしての地位を築いている。彼らの独特なスタイルと個性は、ファンの間で強いカルチャーを形成し、これがコミュニティの結束とブランドへの忠誠心を生み出している

図3 VTuberのコミュニケーション上の強み

⓵アクセシビリティ

オーディエンスがインターネットにアクセスできる限り、どこからでも視聴することができる。地理的な障壁を越えて広範なオーディエンスにリーチすることが可能となる

⓶パーソナリティの表現

キャラクターの強い個性を通じて、ユーモアや感情表現を巧みに利用することができる。伝統的な広報手法では難しい高度なパーソナリティの表現を可能にする

⓷インタラクティブなエンゲージメント

視聴者とのインタラクションを通じて、リアルタイムでのエンゲージメントを創出する。視聴者は自らが参加している感覚を持ち、これにより深い関係性が築かれる

⓸マルチメディア展開

動画、ソーシャルメディア、ライブストリーミングなど、様々なメディアフォーマットに柔軟に適応することができる。これにより、統合的なマルチチャンネル広報戦略を実施する際に、一貫性を持ってブランドメッセージを伝えられる

視点2
VTuberを取り入れた広報戦略

目的意識の明確化

VTuberに限らず、インフルエンサー、著名人等を広報やマーケティングに利用したいと望む企業が、明確な目的を持ち合わせていないことがある。インフルエンサーの利用が、目的そのものに置き換わってしまっているのだ。これは戦略上望ましくない。企業のメッセージが伝わるどころか、戦略そのものが大きくブレてしまうことにもなる。

VTuberを活用する際には、何よりもまず企業や組織の広報目的を鮮明にすることが求められる。どのようなメッセージをオーディエンスに伝えたいのか、そのメッセージを通じてどのような影響を期待しているのか、その目的と意図を明確に定義することが先決となる。VTuberというツールは多様な形でコミュニケーションを展開できる。目的を達成するためのキャラクター設定やコンテンツの企画には、特に注意深い検討が必要になる。企業自身が持つ価値観や文化を反映させ、同時にオーディエンスが関心を持つような方法でメッセージを届けることが、広報活動の成功への鍵になると考えている。

ターゲットオーディエンスの特定と分析

VTuberを活用した広報戦略を策定する際に最重要のプロセスはターゲットオーディエンスの特定と分析である。このプロセスを具体的に実行するには、まずターゲットオーディエンスが誰であるかを明確に定義する必要がある。年齢、性別、地域、職業、収入などの人口統計情報に加え、ライフスタイル、趣味、嗜好、価値観などの心理的要因を考慮することが含まれる。さらに、オーディエンスの行動傾向や関心事を深く理解するために、以下の「データに基づくアプローチ」「ターゲットの細分化とパーソナライズ」を行いたい。

データに基づくアプローチ

データを基にした戦略立案は、ターゲットオーディエンスを特定し分析することから始まる。消費者のデータ、オンラインでの行動パターン、ソーシャルメディアの傾向分析を通じて、オーディエンスの関心をつかむことになる。例えば、特定のアニメやゲームに興味がある層に合わせて、VTuberのキャラクター設計やコンテンツのテーマ性を策定することも可能だ。

ターゲットの細分化とパーソナライズ

オーディエンスの広範な特性を理解するだけでなく、より細かなセグメンテーションを行うことも重要だ。よりパーソナライズされたアプローチができるようになる。年齢層や性別、地域に基づくセグメンテーションを超えて、オーディエンスのライフスタイルや価値観により深く刺さるようなコンテンツを作成し、ブランドとのより個別化されたエンゲージメントを目指す。

メッセージング戦略

メッセージングにおいては、VTuberのキャラクターがストーリーテリングの中心となる。キャラクターのバックストーリー、性格、価値観を用いて、企業のメッセージを自然に消費者に届けるように努める。

 

例えば、環境保護に取り組む企業がVTuberを通じて自然愛護の物語を紡ぐことで、ブランドのサステナビリティへのコミットメントを伝えることもできる。特に注意すべきは、VTuberを介したメッセージングにおいては、単なるパフォーマンスではなく、企業の環境に対する真のコミットメントと実際の活動内容を伝える責任が伴うという点だ。VTuberが持つキャラクターの信憑性とストーリーテリングの力を適切に使うことで、環境保護に関する企業の真摯な取り組みを正確に伝えていく必要がある。

図4 環境保護に取り組む企業がVTuberを活用してブランドのサステナビリティへのコミットメントを伝えるプロセス(例)

ステップ1

VTuberキャラクターの開発

●キャラクターのビジュアルデザインを環境保護のテーマに合わせる

●キャラクターに環境保護に対する熱意を持たせるバックストーリーを設定する

●性格や価値観を通じて、企業のサステナビリティの理念を反映させる

ステップ2

あと60%

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